抄録 |
【背景】 ESDを中心とする食道癌内視鏡治療の進歩によって,広範囲病変やSM浸潤癌においても完全一括切除が可能となった.一方,外科手術においても鏡視下食道切除(VATS-E)の手技が安定し,安全かつ確実な低侵襲手術が可能となった.当院では内視鏡治療、外科手術を全て当科で担当し、表在癌は,原則としてESDにて一括切除し,病理組織学的にリンパ節転移のリスクを評価し,追加治療の適応を決定している.腫瘍分化度,脈管侵襲,腫瘍先進部の浸潤形式が重要なリンパ節転危険因子であると考えている.【方法】2000年1月から2010年12月まで当院における治療した食道癌表在癌内視鏡治療例の521症例のうちpT1a-MM 56症例, pT1b-SM1 14症例を対象とし,治療法,リンパ節転移状況,予後を調べ,治療戦略の妥当性を検討する.【結果】T1a-MM 56例のうち38例 (67.9%)は内視鏡治療のみで経過観察,8例(14.3%)は追加手術 (全例VATS-E)を施行した。追加治療なしの38例中2例でリンパ節再発を認めた.1例はESDを施行し,リンパ管侵襲を認めたが, 82歳と高齢のため経過観察とした.ESD後1年6ヶ月の検査にてリンパ節再発を認めた。手術(VATS-E)を施行したが,術後3年で大動脈周囲リンパ節再発を認め、化学放射線療法を施行した.追加手術を施行した8例のうち3例(37.5%)にリンパ節転移を認めた.リンパ節転移は何れも1個で,大きさは5mm以下であり、画像検査では診断できなかった. T1b-SM1 14例のうち2例は経過観察,3例に手術(全例VATS-E)を施行したが,リンパ節再発,転移を認めなかった。pT1a-MM, pT1b-SM1症例全70例中68例は無再発生存中である.【結語】 食道表在癌は内視鏡治療を先行させ,組織学的にリンパ節転移のリスクを評価して治療方針を決定することで、必要最小限な治療が可能である.追加治療の時期は再発後では根治できない可能性が高い.食道表在癌に対する外科手術は鏡視下手術で対応可能であると考える. |