セッション情報 パネルディスカッション17(消化器内視鏡学会・消化器病学会・消化器外科学会・消化器がん検診学会合同)

胃癌の時代的変遷と将来展望―内視鏡医の視点

タイトル 内PD17-7:

胃癌の時代的変遷―背景胃粘膜環境の視点からー

演者 井口 幹崇(和歌山県立医大・2内科)
共同演者 向林 知津(和歌山県立医大・2内科), 出口 久暢(和歌山県立医大・2内科)
抄録 【目的】我々はHelicobacter pylori(HP)感染による慢性萎縮性胃炎の進展と共に胃発癌リスクが高まることを報告してきた。近年,衛生環境の向上やHP除菌治療の普及と共に若年者のHP感染率が低下してきている。経年的に胃内環境を把握しえた職域集団におけるHP関連胃炎の時代的変遷と発生する胃癌の特徴について検討した。【方法】対象は1994年以降,某職域において胃集団検診を受診した年齢40-60歳の男性4655名。血清pepsinogen(PG)値とHP抗体価の組み合わせにより慢性胃炎のステージを既報のごとくA-Dの4群に分類した。さらにHP陽性・PG陰性とされるB群をα群(PG I≦70 and PG I/II>3.0),β群(PG I>70 and PG I/II>3.0),γ群(PG I>70 and PG I/II≦3.0)の3群に細分類した。【成績】1994年から2004年の10年間で発見された胃癌は63例で,早期癌54例・進行癌9例で,組織型では分化型44例・未分化型19例。2005年以降に発見された胃癌は57例で,早期癌48例・進行癌9例,分化型48例・未分化型9例で,発生胃癌の肉眼型・組織型に差は認めなかった。胃炎ステージに関しては,1994年当時50代であった男性2323名においては,A群15.6%,B群50.2%,C群33.6%,D群0.6%,2004年時点で50代であった男性2072名ではA群28.3%,B群41.9%,C群28.4%,D群1.4%とA群の比率は上昇し,B・C群は減少,年率1%に及ぶ胃癌発生率を示すD群はわずかに増加傾向を示した。B群においては1994年当時ではα群45.2%,β群40%,γ群14.8%に対して2004年時点ではα群39.0%,β群36.9%,γ群24.1%と,B群全体の比率は減少しているものの,我々が以前より報告している,胃癌特に未分化型胃癌の高危険群と考えられるγ群の比率上昇を認めた。【結論】時代の変遷と共にHP非感染率の増加を認めた。感染群全体の割合は低下しているものの,発見胃癌に差は認められず,今回の検討のように一部の高危険群の割合が上昇するなど,現時点では単純に発癌リスクが低下するとは断言できない可能性もあり,背景胃粘膜の状態を個別に評価していく必要があると考える。
索引用語 胃癌, Helicobacter pylori