抄録 |
【はじめに】下部直腸癌に対する側方骨盤リンパ節廓清の効果は議論があるが、転移陽性例の5年生存率は約40%で、肝転移に対する肝切除と同等である。われわれは腹腔鏡下側方骨盤リンパ節廓清を積極的に行っており、早期の成績を報告する。【方法】側方廓清の適応は術前CTスキャンで上方向リンパ節転移を疑う症例である。側方リンパ節転移が疑われれば、絶対的適応である。まず尿管をテーピングし、対側に針糸で引っ張り上げる。廓清には超音波凝固切開装置を主に用いる。総腸骨動脈から外腸骨動脈を廓清の外縁とし、頭側から尾側に剥離する。外腸骨静脈を剥離し、その内側に沿って骨盤壁を露出させる。内外腸骨静脈の分岐部の背側で閉鎖神経を見つけ、損傷に注意する。閉鎖腔の脂肪組織は頭側から尾側、外側から内側に向かって、骨盤壁に沿って剥離していく。この際、脂肪織をしっかり把持し、骨盤壁との間に緊張をかけると、小血管が明瞭に認識され、不用意な出血が防げる。閉鎖動静脈は切除する。内腸骨動脈の外縁を剥離し、上膀胱動脈に沿って進めると、膀胱周囲の脂肪織との境界がわかりやすい。閉鎖腔の脂肪織をいったん摘出する。下腹神経から骨盤神経叢の外側と、総腸骨動脈から内腸骨動脈の内側の間の脂肪織を廓清し終了する。側方リンパ節転移陽性と考えられれば、骨盤神経叢を切除する。【結果】男性16名、女性15名であった。年齢は38~73歳、平均62歳であった。側方廓清に要する時間は片側で48~105分、中央値65分であった。出血量は5~780ml、中央値130mlであった。合併症として、左総腸骨静脈の損傷、右内腸骨静脈の損傷、右閉鎖神経の切断が各1例ずつあった。5例に側方リンパ節転移を認めた。5人に間欠自己導尿を要したが、全例2ヶ月以内に不要となった。【考察】最大の問題点は時間がかかることである。そのため、最近では腫瘍が片側に偏在しておれば、一側のみを廓清することもある。血管、神経の損傷には十分注意し、超音波凝固切開装置は先端の1/3を用い、少しずつ剥離切開していく必要がある。 |