セッション情報 パネルディスカッション20(消化器内視鏡学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

直腸LSTの診断と治療の最前線

タイトル PD20-基調講演:

直腸LSTに対するESDの意義と今後の可能性

演者 矢作 直久(慶應義塾大・腫瘍センター)
共同演者
抄録  ESDは胃や食道では既に標準手技となりつつあるが、直腸を含む大腸においてはまだ先進医療として治療が行われているのが現状である。大腸では難易度や偶発症のリスクが高い上に、多くの病変が腹腔鏡手術により機能障害なしに治療できることが、保険収載が見送られた大きな理由と推測される。しかし直腸に限ってみると、腹腔鏡手術が困難なうえ手術後に機能障害が残る可能性があること、一方で内視鏡の操作性が良好であるため治療は比較的容易であり、偶発症のリスクも低いことからESDのメリットが非常に大きいと考えられる。実際には、リンパ節転移のリスクが低く、従来のEMRでは切除が困難な病変が対象になるが、ただ単に大型の病変だけではなく、肛門管への浸潤を伴う全周性の病変や、不完全な治療のために遺残した病変などもESDによる治療が可能である。大腸の瘢痕症例は穿孔のリスクが極めて高くなるため、経験の少ない者が不用意に治療を行うべきではないが、直腸においては瘢痕があっても比較的剥離しやすく、下部直腸においては剥離が困難で全層切除になった場合でも逢縮で対応することが可能である。従来のEMRによる分割切除や経肛門的切除に較べて、経験を積んだ術者によるESDは治療の確実性が高く、今後、リンパ節転移のリスクが少ないLSTに対する標準的な治療になるものと期待される。
 ESDは、海外においてもそのメリットの高さから、アジア諸国に加えて欧米でも少しずつ実施されるようになってきており、手技の習得を目的とした複数のハンズオンコースが開催されている。欧米においては胃癌や食道扁平上皮癌の頻度が低いため、主な治療対象はバレット食道癌や大腸腫瘍となるが、リスク/ベネフィットのバランスから、動物でトレーニングを積んだ後にまずは直腸LSTから治療をスタートするよう推奨している。国際的にもESDは徐々に広まりつつあるが、一方で術前診断のレベルはまちまちであり、きちんとした手技の普及とグローバル化には、治療のみならず診断面の教育も必要であると考えられる。
索引用語 直腸LST, ESD