セッション情報 パネルディスカッション21(消化器外科学会・消化器病学会・消化器内視鏡学会合同)

消化器癌の悪性度・予後における分子診断

タイトル 消PD21-4:

胃癌の悪性度におけるES細胞特異的Ras,ERas遺伝子発現の意義

演者 片岡 洋望(名古屋市立大大学院・消化器・代謝内科学)
共同演者 久保田 英嗣(名古屋市立大大学院・消化器・代謝内科学), 城 卓志(名古屋市立大大学院・消化器・代謝内科学)
抄録 【目的】ERasは,ES細胞のみに特異的に発現する新規Rasファミリー遺伝子で,移植されたES細胞が奇形腫を形成する際の原因遺伝子として発見された (Nature, 2003).ERasは変異のない状態で常に活性化状態にあり,遺伝子変異の無いES細胞の腫瘍形成能,増殖能において重要な役割を果たしている.ERasは成体の正常組織には発現していないが,我々は胃癌細胞での発現を発見し,今回,ERasの胃癌細胞における機能,胃癌悪性度との関連につき検討した.【方法】1.切除胃癌組織(142症例)におけるERasの発現を臨床病理学的に検討した.2.siRNAによるERasのknockdown (K/D)により,ERas下流のシグナル伝達経路,足場非依存性発育能,浸潤能を検討した.3.Array解析でERasにより制御される遺伝子を解析した.4.ERasによるE-cadherin抑制を細胞での強制発現やK/Dにより,また,胃癌組織では免疫染色により検討した.さらにE-cadherinのrepressor遺伝子群の制御につき検討した.5.ERasのon, offによる上皮間葉移行 (EMT)誘導能を形態学的およびFibronectin, Vimentin発現制御により検討した.6.NOD/SCIDマウス,ヌードマウス移植腫瘍モデルにおける腫瘍増殖,転移能を検討した.【成績】1.ERasは胃癌組織検体の37.5%で発現し,肝転移(p<0.0001),リンパ節転移(P<0. 05)と有意な相関を認めた.2.ERasはMAPK系を活性化せず,PI3K/Akt経路を活性化し,足場非依存性発育能,浸潤能を増強した.3.ERasは強力にE-cadherinの発現を抑制し,病理組織学的検討でERasとE-cadherin発現の逆相関がみられた.4.ERasはZFHX1A, ZFHX1B, TCF3を介してE-cadherin発現を抑制的に制御した.5.ERasは胃癌細胞にFibronectin, Vimentinの発現を増強しEMTを誘導した.6.ERas高発現胃癌細胞は皮下移植モデルでの胃癌細胞増殖,脾移植モデルにおける肝転移能を増強した.【結論】胃癌におけるERas発現はEMTを介した特に肝転移を増強する傾向が認められ,胃癌悪性度のマーカーになる可能性が示唆された.
索引用語 胃癌, ERas