セッション情報 パネルディスカッション21(消化器外科学会・消化器病学会・消化器内視鏡学会合同)

消化器癌の悪性度・予後における分子診断

タイトル 消PD21-7:

Atoh1発現大腸癌における悪性形質獲得機構解析

演者 加納 嘉人(東京医歯大・消化器病態学)
共同演者 土屋 輝一郎(東京医歯大・消化器病態学), 渡辺 守(東京医歯大・消化器病態学)
抄録 【背景、目的】以前より我々は腸管上皮細胞分化遺伝子であるAtoh1/Hath1とがん形質の関連に着目し、APC変異の大腸癌においてAtoh1蛋白がGSK3依存性のユビキチンプロテアソーム系蛋白分解により、大腸癌細胞が未分化形質を維持することを明らかとした。一方で、APC変異のない粘液癌ではAtoh1蛋白が発現し分化形質を有するが予後不良と言われている。Atoh1発現における大腸癌の悪性度、予後への関与は不明であることから、今回我々はAtoh1蛋白の安定化による悪性度獲得機構の解明を目的とした。【方法、成績】Atoh1陰性大腸癌細胞株にレンチウイルスを用いてmcherry蛍光標識をしたAtoh1遺伝子を導入した。導入細胞株では蛋白分解により蛍光は認めず、細胞形質に変化を認めなかったが、GSK3阻害剤にてAtoh1蛋白発現が安定しmcherryの蛍光を確認した。Atoh1蛋白発現は分化形質を獲得する一方、MTS assayにて細胞増殖の亢進を認め、また細胞生存性マーカーMMP9、癌幹細胞マーカーLgr5の遺伝子発現上昇を認めた。以上よりAtoh1蛋白安定発現が癌悪性度獲得に関与することが示唆された。さらに抗がん剤であるオキサリプラチンはWnt/βcateninシグナルに影響せずにGSK3を不活化し、Atoh1蛋白を安定して発現させた。オキサリプラチンに対する感受性においては、Atoh1遺伝子陰性大腸癌との比較にて、Atoh1陽性大腸癌ではAtoh1蛋白安定により有意にcell viabilityが維持され、Cleaved Caspase 3/7/9/PARPの全てが低下したことから抗アポトーシス作用を獲得し、またLgr5の遺伝子および蛋白レベルでの発現上昇も確認し癌幹細胞形質の獲得も示唆された。以上よりAtoh1蛋白は抗がん剤耐性を促進する作用を有することが確認された。さらにヌードマウスへの細胞接種においてもAtoh1陽性大腸癌の抗がん剤耐性を確認しえた。【結論】Atoh1遺伝子陽性大腸癌におけるAtoh1蛋白安定発現は癌幹細胞形質の獲得、抗がん剤耐性の獲得など悪性度増悪に寄与し、これらはAtoh1陽性粘液癌の悪性形質獲得機構を模倣することが示唆された。
索引用語 大腸癌, Atoh1