セッション情報 ワークショップ6(肝臓学会・消化器病学会合同)

全身疾患における肝病変

タイトル 肝W6-11:

口腔扁平上皮癌患者における多重複癌とインスリン抵抗性~HCV感染の視点から

演者 長尾 由実子(久留米大・消化器疾患情報)
共同演者 佐田 通夫(久留米大・消化器疾患情報DELIMITER久留米大・消化器内科)
抄録 【目的】頭頚部扁平上皮癌(SCC)は、全身の癌を母集団とした場合に比して、有意に多重複癌の発症率が高いことが知られている。一方、C型肝炎ウイルス(HCV)は種々の病態を引き起こし、前癌病変である扁平苔癬や口腔SCCもその1つである。口腔SCC患者は、他の消化器癌の中でHCV感染率が高く (Nagao et al: J Oral Pathol Med 1995)(Nagao et al: Hepatol Res 1997)、重複癌患者のHCV感染率は、口腔単発癌と比べ高い (Nagao et al: Hepatol Res 1997)。本調査では、1992年~1994年に口腔SCCを発症し、当大学病院を初めて受診し入院加療した患者60例について、HCV感染者と非感染者における重複癌ならびにインスリン抵抗性について検討した。
【方法】全例に対して上部消化管検査・腹部エコー検査・生化学検査・肝炎ウイルスマーカーを検索した。重複癌発生の観察期間は、初診から最終再来日まで (2008年10月17日直近日) とした。レトロスペクティブにカルテを調査すると共に、全診療科から提出された病理組織学的診断を確認した。重複癌の定義は、(i)個々の腫瘍は、明らかに悪性像を呈する、(ii)個々の腫瘍は、別個に存在する、(iii)一方の腫瘍は、他方からの転移ではないとした。
【成績】60例の多重複癌発生率は35%、HCV抗体陽性率は26.7%であった。HCV感染のある口腔SCC患者は、HCV感染のない患者に比べ、高率に多重複癌を発生した(62.5%、P<0.01)。HCV抗体陽性者における多重複癌として最も多く認められた臓器は肝臓であり、HCV抗体陰性者では胃であった。多変量解析により重複癌発生に関わる因子は、StageIV、HCV抗体陽性、70歳以上の年齢層であった。HCV感染のある重複癌患者は、HCV感染も重複癌も認めないSCC患者よりも、初診時のインスリン値が有意に高かった。
【結論】口腔SCC患者は、HCV感染の有無だけでなく多重複癌についてもスクリーニングする必要がある。HCV感染者においても肝疾患以外の疾患について診査すべきである (Nagao et al: Med Sci Monit 2009)。
索引用語 扁平苔癬, 口腔扁平上皮癌