抄録 |
【はじめに】胃がん検診について,ヘリコバクター・ピロリ(以下Hp)胃炎を念頭においたハイリスク検診の考え方が定着した現在,X線検診においては良性病変を含めた胃疾患全体を包括できる読影基準と指示区分の確立が急務であると考えられる.我々はこの考え方にたって平成21年度より奈良県胃がん検診において新しい読影基準と指示区分を試みている.【診断カテゴリーと指示区分】『0:評価困難⇒0-a:X線検査,0-b:内視鏡検査』『1:正常範囲⇒精査不要』『2:良性⇒2-a:精査不要,2-b:要経過観察』『3:良性、但し悪性を否定できず⇒内視鏡検査』『4:悪性の可能性⇒至急受診』『5:ほぼ悪性⇒至急受診』と分類した。【主な読影基準】1) 胃炎:皺襞,胃小区像よりHp胃炎と判定すれば原則2-b.2) 隆起性病変:胃底腺ポリープは2-a.3) 陥凹性病変:十二指腸潰瘍瘢痕は2-a,胃潰瘍瘢痕は2-b.【胃癌発見例の検討】平成19年,20年度の対策型検診における癌発見例のうち,追跡調査により組織学的に胃癌と確定し,かつ前年または前々年の受診歴がある9例について後方視的に粘膜像を検討した結果,全例がカテゴリー2-bであった.【新基準導入後の結果】読影医は6名で平成21年度後半に新基準を導入,導入前のカテゴリー分布 (%)は1(81.3), 2(15.5), 3(1.7), 4/5(1.3),導入後は1(47.1), 2-a(23.6), 2-b(24.0), 3(4.3), 4/5(0.6),平成22年度は1(57.8), 2-a(7.7), 2-b(30.0), 3(4.1), 4/5(2.9)であった.平成21,22年度発見癌の前年度所見を集計して追加報告する.【考察とまとめ】新基準の導入で読影医にHp胃炎の概念が浸透し,カテゴリーがよく整理されつつあり,第一読影者がリスク分類を行い,第二読影者が病変発見に専念する二重読影の効率化にもつながる.今後の課題は明確な読影基準と具体的で実効性のある指示区分の確立である.胃がんハイリスク検診時代にふさわしい実用的なX線読影基準をさらに検討していきたい。 |