セッション情報 ワークショップ8(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝疾患と幹細胞-炎症、再生、発癌まで-

タイトル 肝W8-9:

ヒト肝癌細胞由来T-cell factor-4 isoformによる低酸素耐性と腫瘍形成能制御

演者 古賀 浩徳(久留米大・消化器内科DELIMITERLiver Research Center, Brown University)
共同演者 J.R. Wands(Liver Research Center, Brown University), M. Kim(Liver Research Center, Brown University)
抄録 【背景】T-cell factor (TCF)-4はWnt/β-cateninシグナル伝達系の中枢転写因子である。最近、我々はヒト肝癌細胞株から14種類のTCF-4 isoformを単離してきた(Exp Cell Res 2011)。それらの中からSxxSSモチーフが欠落したisoform (J型)と、そのモチーフを有するK型のペアを得た。TCF-4 isoformが、その構造上の違いによって癌細胞の形質を制御しているか否かについては不明である。【目的】ヒト肝癌組織におけるTCF-4J型およびK型の発現様式を比較し、それらの肝癌細胞形質に与える影響を明らかにすること。【材料と方法】ヒト肝細胞癌(HCC)細胞株HAK-1A (Yano et al., 1993)を用いた。HCC患者47例の癌部、非癌部組織のJ型、K型発現はRT-PCRで検出した。低酸素は1%酸素下培養あるいはCoCl2で誘導した。蛋白解析はWestern blot、免疫染色等でおこなった。Mock、J型、K型の各安定発現細胞株(それぞれmock細胞、J細胞、K細胞と表記)を樹立し形質の比較に供した。足場非依存性増殖能やヌードマウスを用いた造腫瘍能も検討した。【結果】HCC組織におけるK型の発現レベルはJ型より有意に低かったが、低分化HCCで顕著に低下していた。この背景に低分化HCC内の低酸素環境が関与していることを想定した。正酸素下では形態も含めmock、J、K細胞間に形質上顕著な差は見られなかったが、低酸素下においてJ細胞は増殖抑制を軽微にしか受けず、mock細胞、K細胞より有意に高い増殖能を示した。この低酸素状況下、J細胞ではK細胞に比しhypoxia-inducible factor (HIF)-1α、HIF-2α、さらにHIF-2α下流のEGFRの発現が有意に増強し、さらにEGFR下流のSTAT3系が恒常的に活性化されていた。特異的阻害剤を用いた実験から、J細胞は低酸素下でEGFRシグナル系に強く依存していることが示された。さらにJ細胞の足場非依存性増殖能は低酸素下で有意に高く、造腫瘍性も顕著に亢進していた。【結論】ヒトTCF-4 isoformによる造腫瘍能の亢進を見いだした。この現象はSxxSSモチーフにより制御されていることが示唆された。
索引用語 Wnt, hypoxia