セッション情報 ワークショップ8(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

肝疾患と幹細胞-炎症、再生、発癌まで-

タイトル 消W8-12:

肝幹細胞/前駆細胞への遺伝子異常の蓄積が肝癌の発生に果たす役割

演者 那須 章洋(京都大大学院・消化器内科学)
共同演者 丸澤 宏之(京都大大学院・消化器内科学), 千葉 勉(京都大大学院・消化器内科学)
抄録 【目的】近年,癌組織においても正常細胞同様に癌幹細胞(cancer stem cell)を頂点とした階層構造の存在が示唆されるようになってきた。しかしながら,癌の発生起源となる細胞の由来やその出現に寄与するゲノム異常の生成機構については不明なままである。本研究では正常組織に存在する組織幹細胞や前駆細胞が形質転換することが癌発生の源であることを明らかにする目的で,遺伝子編集酵素activation-induced cytidine deaminase (AID)による肝前駆細胞への遺伝子異常の生成・蓄積と肝発癌との関連性について検討した。
【方法】AIDトランスジェニック(AID Tg)マウスの胎仔肝組織から肝前駆細胞分画を抽出し,レシピエントマウスに移植した。移植細胞の肝組織への生着を促進する目的で,細菌毒素受容体を肝組織に特異的に発現するトランスジェニックマウスをレシピエントマウスとして活用した。対照群はGFPトランスジェニック(GFP Tg)マウスの肝前駆細胞分画を移植したマウス群とし,移植細胞の生着率の検証とともに各群の肝表現型ならびにゲノム異常の解析を行った。
【成績】胎仔肝からsphere形成により濃縮,抽出した肝前駆細胞はE-cadherin+,AFP+,CK19+の細胞群であり経脾静脈的な細胞移植によりGFP Tgマウス由来の肝前駆細胞分画がレシピエントマウスに高率に生着することが確認された。GFP Tgマウス由来胎仔肝細胞を移植したレシピエントマウスでは腫瘍の発生を認めなかったが,AID Tgマウス由来の肝前駆細胞分画を移植した群では10匹中6匹で肝腫瘍の発生を認めた。病理組織学的に発生した腫瘍は肝細胞癌および胆管細胞癌であり,レシピエントマウスに発生した腫瘍組織はいずれも移植した肝前駆細胞分画由来であることが確認された。移植した肝前駆細胞との網羅的なゲノム比較解析により発生した腫瘍組織ではさまざまな発癌関連遺伝子に多様な異常が生じていることが明らかとなった。
【結論】AIDの持続発現の結果もたらされる肝幹細胞/前駆細胞へのゲノム異常の生成・蓄積が肝癌の発生につながるものと考えられた。
索引用語 肝癌, 肝前駆細胞