セッション情報 ワークショップ9(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

我が国の肝移植の現状と将来

タイトル 肝W9-2:

データマイニングで開発した劇症肝炎・肝移植適応ガイドライン:脳死肝移植が普及した時代における利用法

演者 中山 伸朗(埼玉医大病院・消化器内科・肝臓内科)
共同演者 桶谷 真(鹿児島大大学院・消化器疾患・生活習慣病学), 持田 智(埼玉医大病院・消化器内科・肝臓内科)
抄録 【目的】劇症肝炎の肝移植適応は日本急性肝不全研究会のガイドラインで決定しているが,その正診率は最近の症例で低下している。これは脳死肝移植が普及するとより深刻な問題となる。一方,我々はデータマイニング手法でより精度の高い予後予測モデル作成した。そこで,これらの方法を肝移植実施例に適応して予後を予測し,その成績を基に脳死肝移植が現実化した時代における用途を検討した。【方法】厚労省研究班の全国集計に登録された1998-2007年発症の劇症肝炎 1,020例(急性型471例,亜急性型467例)およびLOHF 82例を対象とした。このうち,肝移植を実施した209例に関して,脳症出現時のデータを基に一番正診率の高い誤差逆伝播学習(Back-Propagation:BP)法で構築したモデルを用いて予後を予測し,肝移植非実施893例の予後予測の正診率と比較した。【成績と考案】BPモデルでは肝移植症例209例中92例(44%)が生存と予測された。非移植例における正診率は85%(sensitivity 81%,specificity 90%,PPV 89%,NPV 81%)であることを考慮すると,肝移植例には内科的治療で生存する症例が多く含まれていた可能性がある。そこで,肝移植例で生存および死亡予測例の臨床成績を比較すると,T-Bil(mg/dL)は死亡予測例で高値であったが(14 vs 20),PT(何れも22%)とD/T比(0.57 vs 0.58)には差異は認められなかった。従って,従来の肝移植ガイドラインでは,PTおよびD/T比を重視していたために,正確な予後予測を実施できなかった可能性がある。【結語】脳死肝移植の普及した時代における劇症肝炎の肝移植適応の決定には,非移植例における正診率が高いBP法のモデルを利用するのが適切である。同モデルでは死亡率を定量的に推定することも可能であり,複数の症例間での優先順位を決定する際にも有用と考えられた。
索引用語 劇症肝炎, 肝移植適応ガイドライン