セッション情報 ワークショップ9(肝臓学会・消化器病学会・消化器外科学会合同)

我が国の肝移植の現状と将来

タイトル 肝W9-14:

肝移植における抗体関連拒絶制御の現状と課題

演者 江川 裕人(東京女子医大・消化器外科)
共同演者
抄録 リツキサンの登場により血液型不適合肝移植はほぼ克服された。一方で、抗HLA抗体の臨床的意義についてはいまだ定まった見解がない。従来の細胞傷害性リンパ球クロスマッチ(XM) 検査(LCT)は、検査手技の熟練度の影響が大きい。フローサイトメトリ法(FCM)は、細胞傷害度を測定するものではないが感度がよい。新しいシングルビーズ法は、クラス1、クラス2別にスクリーニングする事が可能であり、個々の対象抗原を特定するだけでなく定量評価もある程度可能である。 これまでの知見をまとめると、1)術前XM陽性症例で生存率が有意に低かった。2)術後XM陽性症例では胆管炎、慢性拒絶が多く、生存率が有意に低かった。3)XMの結果に関わらず、ビーズ法で蛍光強度が10000以上のドナー特異抗体陽性症例は液性拒絶を伴いかつ悲惨な経過をたどった。 以上の結果から、XM陽性あるいはシングルビーズで蛍光強度10000以上の抗ドナー抗体陽性は原則ドナーとしない。蛍光強度10000未満の陽性症例は、可能であれば回避して、回避できない場合は血液型不適合移植に準じた術前脱感作療法を試みる。 導入当事は、ビーズ法は、経費のこともあり、XM陽性症例のみで充分と考えていたが、XM陰性症例の中に高ドナー特異抗体症例が存在することを経験して以降、原則全例行うべきと考えている。確率は低いかもしれないが、健常な生体から臓器を摘出する以上、ビーズ法によりハイリスクドナーを予知し回避することは倫理的にも必須である。シングルビーズは高価なので、ビーズ法のPRAでスクリーニングし、その陽性症例で個々のドナー抗原に対して検討すればコストを少なくすることが可能である。 術後も、術前XM陽性症例、夫や子供から妻・母親への移植、難治性ACR、明らかな胆道系合併症を伴わない胆管炎肝生検所見は抗ドナー抗体とC4dをチェックすべきであろう。 生体肝移植では、家族であるがゆえに“感作”という落とし穴が存在する。脳死移植でも、本邦では頻度が高いHLAもあるので油断できない。特に親族優先提供において危惧される。
索引用語 抗体関連拒絶, HLA