抄録 |
【目的】国際ガイドライン(GL)により診療指針が示されたが,手術浸襲が大きいこと,比較的緩徐な進行を来たすことを考えると,高齢者に対する治療選択については更なる検討が必要である.切除例の病理結果とGL手術適応ながら年齢や併存疾患などにより経過観察の方針となった例の長期経過を解析した.【方法】当科で診断したIPMN 256例中65歳以上の高齢者は171例,そのうちGL適応を満たした74例(主膵管型12,分枝型62)を対象とした.治療法は,主膵管型:初診時切除5,増大後切除2,非切除5,分枝型:初診時切除20,増大後切除4,非切除38.主膵管型,分枝型における手術例の病理結果,経過観察例の腫瘍の進展について検討した.【成績】主膵管型:初診時に5例で手術を行い,腺腫2,上皮内癌2,浸潤癌1であった.経過観察7例中5例で増大を認め,2例は手術に移行し浸潤癌であった.3例は併存疾患のため無治療を選択,1例は4年後に癌性腹膜炎で死亡,2例は現在生存中である(観察期間1.5年,6.5年).分枝型:初診時切除20例は腺腫12,上皮内癌4,浸潤癌4,増大後切除は4例全て腺腫であり,分枝型IPMNのGL正診率は38%であった.悪性関与因子の検討では嚢胞径,膵管径では有意差を認めず,結節高のみ有意差を認めた.結節高により1)<5mm,2)5mm≦,<10mm,3)10mm≦に3分類すると[腺腫/上皮内癌/浸潤癌率]は1)[92%/8%/0],2)[57%/29%/14%],3)[33%/0%/67%]であり,結節高の増加に伴い悪性率,浸潤癌率の増加を認めた.経過観察例の病変進展(嚢胞径10mm,膵管径2mm,結節高2mm以上の増大)に関与する因子の多変量解析では結節高のみが独立因子であった.上記分類ごとの[進展率/50%進展期間]は1)[40%/6.7年],2)[100%/1.3年],3)[100%/8ヵ月]であり,原疾患による死亡(生存期間)は1)0/32, 2)1/4(14.3年), 3)2/5(5.4年,1.8年)であった.【結語】高齢者IPMN診療においてGL適応は正診率が低く,悪性度に比べて手術リスクが高い。基本的には主膵管型および結節高10mm以上の分枝型を手術適応とし,結節高5-10mmの症例では比較的予後が望めることから個々の全身状態に応じて治療法を選択すべきである。 |