抄録 |
【目的】X染色体上の癌抑制遺伝子は、活性なコピーを一つしか持たず、single hitにより完全に不活化されるため、リスクが高いことが知られている。今回、我々は胃癌において、DNAメチル化異常により不活化される、X染色体上の癌抑制遺伝子を同定することを目的とした。【対象及び方法】AGS胃癌細胞株をDNA脱メチル化剤により処理後、発現マイクロアレイ解析を行い、発現が上昇する495遺伝子を同定した。そのうち、X染色体上の遺伝子11個に着目した。胃癌及び、非癌胃粘膜におけるDNAメチル化を解析するため、胃癌細胞株11株、胃癌患者96例の癌部と非癌部胃粘膜、健常者32例(H. pylori陽性16例、陰性16例)の胃粘膜よりDNAを抽出した。定性的methylation-specific PCR (MSP)法によりDNAメチル化の有無を検討し、定量的MSP法によりメチル化レベルを解析した。cDNA及びshRNAを導入した細胞株を作製し、標的遺伝子の機能解析を行った。【結果】11個の遺伝子で、プロモーター領域にCpG islandがあり、定量的RT-PCR法により正常胃粘膜で発現を認めたのは5遺伝子(FHL1,MAOA,CXorf2,SMARCA1,MAOB)であった。このうちFHL1は、64%(7/11株)の胃癌細胞株、及び20%(19/96例)の胃癌でDNAメチル化による不活化を認めた。胃癌細胞株を用いて機能解析を行ったところ、ノックダウンにより細胞増殖は亢進し(141%, P<0.05)、過剰発現により細胞増殖は低下した(71.6%, P<0.05)。健常者胃粘膜におけるFHL1の平均メチル化レベルは、H. pylori感染陰性群及び陽性群で0%及び1.5%(P=0.01)であった。【結語】FHL1は、DNAメチル化異常により不活化される、リスクの高い癌抑制遺伝子であることが示された。また、FHL1のDNAメチル化は、H.pylori感染により誘発され、非癌部胃粘膜にも蓄積しており発癌の素地形成に関与すると考えられた。 |