抄録 |
【目的】大腸鋸歯状病変に関する臨床的課題について考察する。 1)鋸歯状腺腫(TSA)、sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)の内視鏡診断は可能か、2)TSA、SSA/Pは放置すると癌になるのか、3)TSA、SSA/Pはすべて治療の対象か、という課題がある。【考察】1) TSAのpit patternを、藤井らはIIIh型、IVh型と表現した。我々はSSA/Pも含めて、絨毛状のIV型に似ているが先端が太く血管や発赤が目立つものを松毬状 pinecone-like、IIIL型や脳回転状のIV型に似ているがギザギザしているものを羊歯状fern-like、II型に類似するものを星芒状star-like と表現してきた。松毬状や羊歯状を呈する病変の約95%がTSAであり診断容易である。SSA/Pの腺口は通常のII型より開大傾向なので敢えて「星芒状」としたが、過形成性ポリープ(HP)と厳密には区別できない。SSA/Pは右側大腸に多く、平均腫瘍径がHPより有意に大きい。しかし、右側にあればSSA/Pなのか、large hyperplastic polyp(LHP)はすべてSSA/Pか、という疑問が湧く。HP様の病変に松毬状や羊歯状の部分(2段構造; two-layered structure)を有するものは腫瘍性変化が始まっていると考える。またNBIを用いると血管がSSA/PでHPよりやや増生している印象があるが、検討中である。2) 鋸歯状病変で高率に癌と共通の遺伝子変化が認められる、 TSAやSSA/P由来癌が存在することは事実であるが、どの程度の癌化率なのか証明するには、前向き試験が必要と考える。3) 上記の課題が解決されないと答えが出ないが、SSA/PとHPの鑑別ができなければ、放置してよいHPまで治療することになりかねない。【結論】大腸鋸歯状病変の臨床的取扱いは確定していない。概念の整理・統一と症例の集積が必要である。【文献】樫田博史:Serrated adenomaとaberrant crypt fociについて.消化管拡大内視鏡診断の実際 158-168,金原出版,2004、樫田博史ほか:大腸鋸歯状病変における発育進展・癌化.胃と腸43:1897-1910,2008 |