抄録 |
【目的】慢性胃炎における異常メチル化の蓄積は胃癌の発生に関与しており、発癌リスクのバイオマーカーとして有用である可能性が示唆されている。今回我々は胃炎による萎縮の程度と異常メチル化の相関について明らかとすることを目的とした。【対象と方法】当センターにて2007年5月~2009年12月までの期間に精査を行った非胃癌患者(49症例)、胃癌患者(39症例)を対象として、前庭部と体部大彎の非癌背景粘膜を用いて検討した。胃炎による萎縮評価はOLGA分類およびペプシノゲン(PG)法で行い、OLGA分類Stage0-2とPG陰性をLow risk群(L群)、OLGA分類Stage3-4とPG陽性をHigh risk群(H群)とした。またメチル化に関してはWnt関連遺伝子(SFRP1,2,5,DKK2,3,WIF1,CDH1,WNT5A,SOX5)の定量的解析を行った。【結果】OLGA分類とPG法の両者間におけるH, L群は一致する傾向にあった。また両者ともH群において、前庭部のSFRP1,2, WNT5A, SOX5,および体部のSFRP2, DKK2,3, WNT5A, SOX5で高メチル化を示した。さらにPG法ではPGIIの低値とSFRP5, DKK2,3 のメチル化率は相関した。次に癌・非癌症例でのrisk群と部位別の比較を行った。前庭部では、癌症例・H群でSFRP2, DKK2, WNT5A, SOX5,および癌症例・L群でSFRP1,2, DKK2, SOX5, WNT5A, WIF1で有意な高メチル化を示した。また体部で癌症例・H群でSFRP2, および癌症例・L群でSFRP2, WNT5Aで有意な高メチル化を示した。【考察】Wnt関連遺伝子のメチル化異常は胃癌ハイリスク症例、さらに各リスク群における胃癌症例の背景粘膜で蓄積されていることが明らかとなった。Wnt関連遺伝子のメチル化異常の蓄積が発癌に関与し、複数のWnt関連遺伝子のメチル化解析が発癌リスク診断に有用である可能性が示唆された。 |