セッション情報 シンポジウム1(肝臓学会・消化器病学会合同)

分子標的治療の限界を超える新しい肝癌治療法の開発

タイトル 消S1-3:

VEGF非依存性メカニズムに基づいた肝癌分子標的治療の開発

演者 田中 真二(東京医歯大・肝胆膵・総合外科)
共同演者 中村 典明(東京医歯大・肝胆膵・総合外科), 有井 滋樹(東京医歯大・肝胆膵・総合外科)
抄録 【目的】肝細胞癌は典型的な多血性腫瘍であり、血管内皮増殖因子vascular endothelial growth factor (VEGF)シグナルを阻害する分子標的剤の開発が進められている。中でもVEGFR, PDGFR, Rafなどを阻害するソラフェニブは、第3相臨床試験にて有効性が示され、臨床応用が始まっている。一方、VEGF阻害剤に対する耐性や悪性転化など、様々な問題点も明らかとなってきた。我々は、肝細胞癌のVEGF非依存性について、臨床および基礎の両面から解析している。【方法】VEGF依存性の低下メカニズムに対して、肝細胞癌の臨床検体および基礎実験に基づいた2つの手法によって解析した。(1)臨床検体から肝細胞癌の血管新生に伴って活性化する遺伝子群を解析し、分子標的を同定した。(2)低酸素状態におけるヒト肝癌細胞の細胞生理学的、分子生物学的解析に基づいて臨床検体を検証し、分子標的を同定した。【成績】(1)多血性肝癌組織から血管新生因子をクローニングし、VEGFと異なった発現機構や作用機序を持つことを明らかにした。肝癌進展への関与を明らかにして、その抑制分子の有効性を前臨床試験で証明した。現在、阻害剤の第2相臨床試験で良好な成績を収め、ソラフェニブとの併用効果も期待されている。(2)ヒト肝癌細胞の幹細胞様分画を抽出し、低酸素下で特異的に増殖することを見出した。さらに低酸素下肝癌における誘導遺伝子群と臨床検体マイクロアレイデータに基づいて、分子標的となる細胞内キナーゼを検証した。現在、VEGFRキナーゼ阻害剤の分子骨格をベースとした二重キナーゼ阻害剤の有効性を前臨床試験で解析している。【結論】VEGFとは異なった血管新生シグナルや低酸素下増殖機序の解析は、肝細胞癌の新たな分子標的を明らかにし、ソラフェニブ併用や二重キナーゼ阻害剤などの治療応用へ展開できることを実証した。
索引用語 血管新生, 低酸素