抄録 |
【目的】Transforming growth factor-β1(TGF-β1)は消化管で発現する成長因子の一つで、腸粘膜の治癒過程において重要な役割を担い、腸管上皮細胞の機能を制御していると考えられている。TGF-βスーパーファミリーの一員であるアクチビンAは腸管上皮の陰窩・絨毛の分化方向の決定に関与している。そこで今回我々は腸管上皮細胞におけるTGF-β1の役割とシグナル伝達経路について検討した。【方法】ラット腸管上皮細胞株IEC-6細胞を用いて検討を行った。TGF-β1の産生はELISAで測定し、Smad蛋白の核内移行は免疫細胞染色を行った。TGF-β1の細胞増殖に及ぼす影響はBrdUの取り込みにより測定し、分化に及ぼす影響は腸管上皮の分化マーカーであるApoA-IVを用いてRT-PCR法で測定した。さらにアデノウィルスを用いてSmad2とSmad3の発現を調節し、それぞれの作用経路について検討した。【結果】IEC-6細胞はTGF-β1を自身で産生し、上清中にTGF-β1を添加するとSmad2,3蛋白が核内移行することから、Smad2,3依存性のTGF-β1伝達経路が存在した。TGF-β1を添加し培養すると濃度依存性にIEC-6細胞の増殖は抑制された。また、ApoA-IVの発現が濃度依存性に増加することから、TGF-β1は絨毛方向への分化を誘導すると考えられた。IEC-6細胞をDominant-negative Smad2/3を発現するアデノウイルスに感染させ、Smad2,3経路を遮断するとTGF-β1による増殖抑制とApoAIVの発現増強効果が消失した。加えて、Smad3を発現するアデノウィルス(AdSmad3)、またはSmad2を発現するアデノウィルス(AdSmad2)を感染させると、AdSmad3感染では増殖抑制効果が、AdSmad2感染ではApoA-IV mRNAの発現増強が再現された。【結論】TGF-β1は腸管上皮細胞株において、Smad3依存性経路により増殖抑制を、Smad2依存性経路により絨毛方向への分化誘導を行っている。 |