セッション情報 シンポジウム1(肝臓学会・消化器病学会合同)

分子標的治療の限界を超える新しい肝癌治療法の開発

タイトル 肝S1-4:

Sorafenibとangiotensin-II受容体阻害薬 (ARB) 併用による肝発癌抑制

演者 吉治 仁志(奈良県立医大・消化器・内分泌代謝内科)
共同演者 野口 隆一(奈良県立医大・消化器・内分泌代謝内科), 福井 博(奈良県立医大・消化器・内分泌代謝内科)
抄録 【目的】Sorafenib (SORA)はVEGFなどに対する分子標的治療薬として我が国でも進行肝癌に対して認可され、肝発癌を抑制する可能性についてさらに臨床試験が進められている。しかし、肝癌の発生母地である肝硬変患者に高用量のSORAを長期間投与するには、副作用対策や長期安全性の確認など解決すべき問題が多く残されている。我々はこれまでにangiotensin-II 受容体阻害薬 (ARB) がVEGFを阻害して実験的肝発癌を抑制することを報告してきたが、SORAの有害事象が用量依存性であることを踏まえ、今回低用量SORAとARBの併用効果について血管新生との関連を中心に検討した。【方法】コリン欠乏アミノ酸 (CDAA)食投与ラット肝発癌モデルを用いてSORA、ARBのGST-P陽性前癌病変、およびCD31を指標とした肝内血管新生に及ぼす影響について検討した。血管新生因子の変化についてはProtein arrayを用いて解析した。また、in vitro血管新生キットを用いてSORA、ARBの直接的影響について検討した。【成績】 SORA投与によりGST-P陽性病変の発生は用量依存性に有意に抑制された。一方、ARB (losartan 30mg/kg)は単独投与でもGST-P陽性病変発生を有意に抑制したが (p<0.05)、SORA低用量 (0.5 mg/kg) と併用することによりSORA高用量 (1.25 mg/kg) と同程度の強い抑制効果が認められた (p<0.01)。この際、肝内の血管新生はGST-P陽性病変抑制の程度にほぼ平行して有意に抑制されていた。SORA、ARB投与群ではGST-P陽性病変、肝内血管新生にほぼ平行するようにVEGF発現が抑制されていた。In vitro実験系での血管内皮細胞の管腔形成はSORA、ARB処置群で対照群に比し抑制されており、併用群ではさらに強い抑制効果が認められた。【結果】低用量SORAとARBの併用により高用量SORAと同程度のVEGF抑制、肝発癌抑制を達成できた。低用量SORA/ARB併用療法は有害事象の少ない有効な分子標的治療になりうる可能性が示唆された。
索引用語 肝がん, 血管新生