抄録 |
【背景と目的】Urocortin I(UcnI)はCorticotropin-releasing factor(CRF)と相同性がある神経ペプチドで,CRF受容体を介して作用する.末梢にも広く分布し,腸管ではマクロファージ等の炎症細胞に発現している.近年IBS患者の肉眼的正常な腸管でも,組織学的に粘膜内リンパ球浸潤や,筋間神経叢周囲へのマクロファージ浸潤が報告され,消化管運動異常と免疫機構の関係が注目されている.そこで我々は,1)UcnIおよびCRF受容体のラット結腸ENSにおける存在を明らかにし,2)結腸組織片に対するUcnIの影響を確認した.3)ラット大腸粘膜固有層内リンパ球(LPL)に対する炎症性Mitogen添加後のUcnI-mRNA,蛋白量および,UcnI添加後のIL-6産生量を検討した.【方法】1)ラット結腸ENSにおけるUcnI,CRF受容体の存在を共焦点顕微鏡を用い免疫組織化学的に検討した.2)ラット結腸の組織片を輪状筋方向にオーガンバス内に懸垂し,その張力(phasic contractions)を測定した.これらに対するUcnIの影響を検討し,作用機序を明らかにするためantalarmin(CRF1拮抗薬),tetrodotoxin(TTX),atropineの存在下でUcnIの影響を検討した.3)LPLを採取後in vitroでMitogen(TCRβ,LPS,Pokeweed Mitogen)を添加培養し24時間後UcnI蛋白発現量およびmRNA量を測定した.同様にUcnIを添加培養し72時間後IL-6を測定した.【結果】1)免疫組織化学的にUcnIおよびCRF受容体は筋間神経叢の神経細胞に存在した.2)UcnIは,phasic contractionsを濃度依存性に増強し,antalarmin,TTX,atropineにて抑制された.3)LPLへの炎症性mitogen添加で有意にUcnI-mRNAおよび蛋白量が増加し,UcnI添加で有意にIL-6が産生した.【考察】本研究からUcnIは炎症と消化管の運動異常を結ぶneuro-moduratorとして作用することが推測され,post infectious IBS等の消化管運動異常の病態における重要な因子である可能性が示唆された. |