セッション情報 シンポジウム1(肝臓学会・消化器病学会合同)

分子標的治療の限界を超える新しい肝癌治療法の開発

タイトル 肝S1-5:

S-1メトロノミック化学療法を併用した分子標的治療の切除不能肝細胞癌に対する効果

演者 中野 聖士(久留米大・消化器内科)
共同演者 岩本 英希(久留米大・消化器内科), 佐田 通夫(久留米大・消化器内科)
抄録 【目的】分子標的治療薬であるソラフェニブ(So)は切除不能肝細胞癌に対する標準的な治療薬だが、単独での効果は満足の行くものではなく、更なる工夫が必要と考えられる。一方、メトロノミック化学療法(MC)は「大量投与・長期休薬」といった従来の抗癌剤の投与法(MTD)とは異なり、少量を休薬せずに長期間投与する方法である。今回我々は、5-FUのプロドラッグであるS-1を用いたMC併用による分子標的治療薬の抗腫瘍効果について検討した。【方法】ヌードマウスにヒト肝癌細胞株を接種したモデル1.に対しては、VEGF receptor 2 (VEGFR2)とEGFRを阻害する分子標的治療薬であるバンデタニブ(Va)群とVa+S-1 MC群の治療効果を比較した。また、NASHからの自然発癌モデル2.に対しては、腫瘍形成後に投与したSo群とSo+S-1 MC群の治療効果を比較した。【成績】モデル1.において、Va群は対照群やMTD群に比べ有意に抗腫瘍効果と予後の改善を認め、この効果はS-1 MC併用により増強された。有害事象に関しては、MTD群で体重減少とヘモグロビン低下を認めたが、Va群やVa+S-1 MC群ではみられなかった。抗腫瘍効果の機序としては、S-1及びVaによる直接的な作用と、内因性血管新生抑制因子であるTSP-1の発現亢進による二重の腫瘍血管新生抑制作用が主体をなしていると考えられた。モデル2.において、腫瘍の発生は対照群に比べてSo群・So+S-1 MC群で抑制されたが、最大腫瘍容積と総腫瘍容積はSo+S-1 MC群でのみ抑制された。骨髄抑制や体重減少はSo群・So+S-1 MC群ではみられなかった。【結論】マウス肝癌モデルにおいて、S-1 MCは重篤な有害事象なく分子標的治療薬の抗腫瘍効果を増強した。現在我々はこの結果を踏まえて、SoとS-1 MCを併用した第一相の臨床試験のエントリーを行っている。
索引用語 切除不能肝細胞癌, 分子標的治療