抄録 |
症例は30代の男性,主訴は体重減少,下痢,右下腹部痛.【病歴と経過】平成13年に肛門病変を指摘され当科紹介.同年10月経口小腸造影にて回腸に3ヶ所の狭窄性病変及び縦走潰瘍を認めクローン病(以下CD),小腸大腸型と診断された.以後,主にmesalazineの内服で経過良好であった.平成17年11月より下痢回数の増加(10回以上/日)と3ヶ月間で5kgの体重減少を認め,精査加療目的にて平成18年1月当科入院.入院時,右下腹部痛があり,WBC1070,CRP3.4mg/dlと炎症所見を認めた.頻回の下痢による経口摂取困難のため中心静脈栄養管理とした.入院4週後に施行したゾンデ法小腸造影では,回腸に狭窄,縦走潰瘍瘢痕が多発していた.主な狭窄は4ヶ所あり,最も口側の狭窄部には口側の腸管拡張を伴っていた.入院5週後に経肛門的にダブルバルーン小腸内視鏡(以下DBE)検査を施行.バウヒン弁より 145cmに第1狭窄部位を認め,内視鏡が通過しなかったため,20mm径のTTSバルーンを用い3.0ATMで2回拡張術を施行した.口側へ挿入可能となり,バウヒン弁より170cmに第2狭窄部を認め同様に2回拡張術を施行した.内視鏡は容易に狭窄部を通過した.入院6週後には経口的アプローチでDBE施行.トライツ靭帯より545cm肛門側部より3ヶ所の狭窄部を認め20mm径のTTSバルーンで各々3ATMにて拡張術施行.合計5ヶ所の狭窄部は,拡張術後内視鏡は容易に通過した.狭窄部より少量の出血を認めたが,拡張術後,穿孔等の合併症はなく経過は良好である.【結語】本症例は小腸の多発狭窄に対しDBEによる拡張術が有効であった.従来,内視鏡的拡張術は,手術回避の面で有用性が示されている.短期的には,樋渡らは100%(n=12),松井らは83.3%(n=60),有効であり,長期的にも,非累積手術率は,樋渡らは1年で91%,3年で74%であり,松井らはそれぞれ86%,71%と報告している. このような例に対しDBEの出現で小腸の狭窄にも応用可能となり,今後,腸管温存,患者のQOLの面からも試みる価値のある治療法と考えられた. |