抄録 |
【症例】72歳男性。【主訴】発熱、心窩部痛。【現病歴】もともと焼酎を1日3合程度の常習飲酒家。入院約半月前から夏ばてのためか食欲低下し飲酒量が増加した。入院3日前より咽頭痛を認めた。咽頭痛は軽快したが38℃台の発熱及び心窩部のきりきりとした持続痛が出現し、軽快しないため当院外来を受診。【入院時現症】血圧152/95mmHg 脈拍135/分 体温38.9℃、腹部は平坦・軟であるが、心窩部に5cm程度の硬い圧痛を伴う腫瘤を触知した。筋性防御や反跳痛は認めなかった。【入院時検査成績】採血上はWBC 13900/μL、CRP 31.74mg/dlと著明な炎症反応を認める他は明らかな異常所見なし。腹部超音波検査および腹部造影CTで胃から十二指腸まで全周性に著明な壁肥厚を認めた。上部消化管内視鏡検査では、胃は全体的に浮腫様で伸展不良であった。生検時に明らかな異常は認めなかった。【入院後経過】急性発症の発熱、腹痛、胃壁の著明な肥厚を認めていたことから4型胃癌もしくは好酸球性胃炎などのアレルギー性疾患を疑い絶食にて経過観察した。心窩部痛は、鎮痛剤の内服でコントロール良好であっが、38℃台後半の発熱は持続した。第5病日に左大腿部の腫脹と疼痛を認め、同部位に暗赤色の水泡が出現した。CTでは左大殿筋から大腿筋群背側の著明な腫脹が認められ同組織の壊死が疑われた。皮膚の水疱は急速に拡大してゆき、ショック状態となり、第6病日に死亡された。病理解剖を行い、胃粘膜下層に約1cmの厚さの膿瘍が存在したことから入院時の発熱、腹痛の原因は胃蜂窩織炎によるものであったと分かった。胃筋層の膿、左大腿の壊死筋組織、水疱内容物の培養からいずれもStreptococcus pyogenesが検出されたことから、toxic shock-like syndromeと診断した。【結語】原因不明の発熱があり、腹部超音波やCTで全周性の壁肥厚を認めた場合本疾患を疑い、速やかに強力な抗生剤治療や外科的切除などを検討するべきであると考えられた。 |