セッション情報 パネルディスカッション5(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

消化器癌と酸化ストレス

タイトル 消PD5-1:

肝細胞障害が誘導する酸化ストレスと肝発癌

演者 疋田 隼人(大阪大大学院・消化器内科学)
共同演者 巽 智秀(大阪大大学院・消化器内科学), 竹原 徹郎(大阪大大学院・消化器内科学)
抄録 【背景/目的】肝細胞障害の指標とされるALTの上昇は、慢性肝炎からの肝発癌の危険因子として知られている。一方で、各種慢性肝炎からの肝発癌の原因の1つとして、酸化ストレスが知られている。しかし、肝細胞障害が酸化ストレスと肝発癌にいかに関与しているのかは不明である。そこで、今回我々は肝細胞障害が酸化ストレス、肝発癌に与える影響を検討した。
【方法/結果】まず、肝細胞障害が酸化ストレスに与える影響を検討するために、ヒト正常肝細胞にアポトーシス抑制蛋白質を阻害することでアポトーシスを誘導したところ、酸化ストレスマーカーとしてのHO-1やnqo1は有意な上昇を認めた。そこでin vivoの検討として、肝細胞特異的にアポトーシス抑制蛋白質であるBcl-xLやMcl-1を欠損させ、持続的なALTの上昇を伴う肝細胞障害を惹起させたマウスを作成し、その肝臓の酸化ストレスを評価した。HO-1やnqo1の上昇とともに、いずれの欠損マウスの肝細胞でも8-OHdG陽性核数の有意な上昇を認め、1年、1.5年と加齢とともに更なる上昇も認めた。これらマウスの肝障害はアポトーシス促進因子であるBakやBidの更なる欠損で抑制され、ALTの上昇も有意に改善し、HO-1やnqo1の低下を認め、8-OHdG陽性核数も有意に減少した。
次に酸化ストレスを誘導する肝細胞障害と肝発癌との関係を検討するために、これらマウスの肝発癌を検討した。野生型マウスは1.5年でも1匹も肝腫瘍の発生を認めなかったのに対して、Bcl-xL欠損マウスは1年で27%、1.5年で88%のマウスに、Mcl-1欠損マウスは1年で64%、1.5年で100%のマウスにヒトの高分化肝細胞癌に酷似した肝腫瘍の発生を認め、いずれの欠損マウスも加齢とともに肝腫瘍の発生率が増加した。BakやBidを欠損させ、肝障害を改善させ酸化ストレスを抑制したMcl-1欠損マウスはそれぞれ1年で0%、13%と肝腫瘍の発生率は有意に低下を認めた。
【結論】肝細胞障害は酸化ストレスを誘導し肝発癌を惹起した。血清ALT値が指標となる肝細胞障害の改善は酸化ストレスを抑制し、肝発癌を低下させせることが明らかとなった。
索引用語 肝細胞癌, 酸化ストレス