抄録 |
【目的】酸化ストレスは肝発癌の主要なリスクである。一方、フリーラジカルは8-OHdGを誘導し、8-OHdGは複製時にG→T変異(トランスバージョン)を惹起することから遺伝子変異の原因となりうる。しかし、肝癌に認められる癌抑制遺伝子(TSG)の変異をみた場合、G→T変異が特徴的な変異スペクトラムとは言えず、また早期肝癌ではTSGのゲノム変異の頻度は低い。今回、我々は酸化ストレスがヒト肝発癌早期にエピゲノム変異を惹起し、肝発癌を促進すると考え、以下の解析を試みた。【方法】1994年~2002年にかけて肝生検を施行した128例の慢性C型肝炎組織 (CHC)を用い、8-OHdGを免疫染色し、以下の解析を施行した。なお、8-OHdG強度は核に染色される細胞の割合により、2+ (陽性細胞≧50%) 、1+ (49~10%)、±(≦10%) の3群に分類した。 (1) 37例のIFN治療非SVR例において、8-OHdG染色強度と発癌までの期間の関係をKaplan-Meyer法にて解析した (2) 128例のCHCのパラフィン切片よりDNAを抽出し、我々が肝発癌早期にドラーバーとして働くと報告した10種類のメチル化TSGの有無をMethyLight法にて検討した。8-OHdG染色と、一般的な肝癌リスク因子と考えられる年齢、性、Fステージ、鉄染色強度を共変量として、メチル化TSG数と関連する因子を多変量解析にて検討し、オッズ比を算出した。【成績】(1) 8-OHdG染色強度は量依存的に発癌までの期間と相関した (p=0.0026, log-rank test)。(2) 独立してCHCに認められるメチル化TSG数と関連する因子は8-OHdG染色強度のみであり (p<0.0001)、メチル化TSG数に対するリスク比は、8-OHdG染色強度との間に量依存的関係が認められた(2+ vs. ±; リスク比 3.53, CI=5.97-2.15: 2+ vs.1+; リスク比 2.01, CI=3.42-1.18: 1+ vs. ±; リスク比 1.76, CI=2.83-1.11)【結論】肝発癌のドライバーとして働くと考えられるTSGのメチル化による不活性化は、8-OHdG染色強度とのみ強く相関し、酸化ストレスによるDNA損傷がエピゲノム変異を誘導する可能性が示唆された。 |