セッション情報 パネルディスカッション5(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

消化器癌と酸化ストレス

タイトル 外PD5-5:

肝細胞癌でのPin1を介したNF-κBとPPARγの活性調節による酸化ストレス制御及び抗Pin1抗体の腫瘍増殖抑制機序の解明

演者 久保木 知(千葉大・臓器制御外科)
共同演者 篠田 公生(千葉大・臓器制御外科), 宮崎 勝(千葉大・臓器制御外科)
抄録 【目的】酸化ストレスはNF-κB活性を亢進して炎症反応を増強し、腫瘍増殖を促進する。一方、PPARγ活性の抗炎症作用はNF-κB活性を抑制し、酸化ストレスを軽減して抗腫瘍効果を示す。今回、肝細胞癌(HCC)でのNF-κBとPPARγの活性調節による炎症制御機序を解明し、腫瘍増殖への影響を評価、更にはNF-κB活性抑制を介した酸化ストレス制御の抗腫瘍効果を検討。【方法】酸化ストレスモデルであるマウスI/R障害肝でのPin1を介したNF-κB活性化機序を検討し、PPARγ活性亢進の炎症性障害軽減作用を評価。HCCでのPin1及びPPARγ発現、NF-κB及びPPARγ活性、腫瘍増殖等を評価し、予後との相関を検討。HCC細胞株での抗Pin1抗体及びPPARγリガンドの腫瘍増殖抑制効果を評価。【成績】マウス肝I/R障害のNF-κB活性亢進にはPin1との複合体形成が必要だった(J Hepatol 2010)。I/R障害でPPARγ活性は抑制されたが、PPARγリガンド投与で活性は維持され、肝の炎症性障害は軽減した(Hepatology 2008)。次にNF-κBとPPARγによる炎症調節のHCC増殖への影響を検討。Pin1強発現HCC群では腫瘍径増大、Ki-67発現増強を認め、有意に予後不良だった。Pin1発現はp65との複合体形成、核内リン酸化p65発現、NF-κB活性亢進と正の相関を認めた。PPARγ活性亢進はNF-κB活性と負の相関を認め、腫瘍内IL-8産生抑制及びp27発現増強に伴うcell cycle arrestを介して腫瘍増殖を抑制し、HCC内PPARγ弱発現は予後不良因子だった。HCC細胞株を抗Pin1抗体で刺激すると、NF-κB活性抑制を介した腫瘍増殖抑制を認め、PPARγ活性は亢進した。一方、PPARγリガンド刺激はその活性を亢進し、細胞増殖を抑制した。【結論】HCCではNF-κBとPPARγの活性バランスによる酸化ストレス調節が腫瘍増殖を制御する。腫瘍内NF-κB活性亢進にはPin1との複合体形成が必須で、抗Pin1抗体によるNF-κB活性抑制はPPARγ活性を亢進し、抗炎症作用に基づく抗腫瘍効果を示すため、HCCに対する有用な分子標的治療となる。
索引用語 肝細胞癌, Pin1