セッション情報 パネルディスカッション5(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

消化器癌と酸化ストレス

タイトル 肝PD5-6:

肝癌におけるHeat shock transcription factor 1(HSF1)の役割

演者 中馬 誠(北海道大大学院・消化器内科学)
共同演者 坂本 直哉(北海道大大学院・消化器内科学), 前田 愼(横浜市立大・消化器内科)
抄録 【背景と目的】肝細胞癌の発癌過程において酸化ストレスの関与が考えられている。Heat shock transcription factor 1(HSF1)は、生体の様々なストレスに応答し、細胞内のシグナル伝達で重要な役割を担っている分子である。今回HSF1の肝癌における役割を解析した。【方法】A;細胞生物学的検討:HSF1標的遺伝子の探索1)、HSF1KO、WTマウスの初代培養肝細胞株 、HSF1高発現肝癌細胞株(HSF1 control)、同細胞株のHSF1-KD細胞での細胞増殖に関する検討2)、apoptosisに関する検討3) B;肝癌症例におけるHSF1の発現と臨床病理学的検討【結果】A; 1) microarray では、HSF1発現抑制により、増殖因子EGFR,EGR,転写因子KLF, 細胞骨格分子vav3, 細胞周期因子CDC45,CDCA7などの遺伝子で発現の低下を認めた。2) HSF1-KD 細胞では、controlに比較して、50%の増殖抑制を認めた。EGF投与後、HSF1KOではWTに比べ、ERKのリン酸化の有意な低下を認めた。SCIDマウスにおいてHSF1-KD細胞ではcontrolに比較して有意に腫瘍の縮小を認めた。マウス肝左葉切除後の肝右葉においてHSF1は24,48時間後で発現の増加を認め、HSF1は肝細胞の増殖、再生に関与していると考えられた。3)TNFα投与後のNF-κB signalについては、WTに比較してHSF1 KOでは、HSF1により制御されているBAG-3(Bcl-2-associated athanogene domain 3)の発現減少を介して、IKKγのproteasome degradationを来たし、NF-κBの活性化の低下を認めた。またHSF1-KDでは、controlに比較してTNFα, 5-FU投与後FACSでのsub-G1量の上昇、TUNEL染色においても陽性細胞の上昇を認め、HSF1の発現抑制はapoptosisの亢進に寄与していると考えられた。B; Western-blot、免疫組織染色では、癌部が非癌部に比較して60%の症例で高発現しており、HSF1の高発現と分化度、腫瘍径、肝内転移、予後が相関していた。【考案および結論】HSF1は、様々なシグナル伝達の制御を担っており、肝癌の腫瘍増殖、apoptosisおいて重要な役割と標的治療としての可能性が示唆された。
索引用語 肝細胞癌, HSF1