セッション情報 パネルディスカッション5(消化器病学会・肝臓学会・消化器外科学会合同)

消化器癌と酸化ストレス

タイトル 外PD5-12:

酸化ストレスに対するROS産生能の消化器癌発癌・増殖・薬剤耐性への関与

演者 奥村 浩(鹿児島大大学院・腫瘍制御学・消化器外科学)
共同演者 K.  Huebner(オハイオ州立癌センター), 夏越 祥次(鹿児島大大学院・腫瘍制御学・消化器外科学)
抄録 【目的】酸化ストレスによる発癌および薬剤耐性のメカニズムには不明な点が多くその解明は重要である.Ferredoxin Reductase(Fdxr)は54kDaのミトコンドリアに局在する電子伝達系酵素蛋白であり,活性酸素種(Reactive Oxygen species: ROS)で誘導されるアポトーシスに深く関与している.一方,消化器癌の発生に癌抑制遺伝子Fhitの欠失が関与していることが以前から報告されていたが,我々はFdxrがFhit結合標的蛋白である事を見いだし,消化器癌の発生,増殖および抗癌剤感受性と関与していることを解明した.【方法】固形癌培養細胞を用い以下の実験を行った.マススペクトロメトリーを用いたFhit結合蛋白検索,Fdxrノックアウト細胞におけるROS産生による,アポトーシス誘導,および抗癌剤感受性実験.次に,胃癌細胞株MKN74のFhit導入株および変異株によるROS産生能およびマウスによる腫瘍形成能比較.最後に,Fhitノックアウトマウスの消化管上皮における発癌実験.【結果】FdxrはFhitの結合蛋白で,ミトコンドリアに局在し,その発現はFhit蛋白により調節されていた.FhitおよびFdxr発現の増強は,ROS産生およびアポトーシスを誘導し,シスプラチン,タキソール感受性を高めていた.Fhit発現細胞においてFdxrをノックアウトすると,ROS誘導によるアポトーシスは消失した.胃癌細胞株では,変異型Fhit蛋白のミトコンドリア局在は低下しROS産生はみられず腫瘍形成能が高かった.Fhitノックアウトマウスの食道,胃の上皮では恒常的にROS産生が低下し,DNA傷害,細胞増殖能の亢進した状態が確認され,癌化のポテンシャルを有していた.【結語】ミトコンドリア蛋白FdxrはFhit蛋白と協調しながらROS誘導を介して発癌,腫瘍増殖,抗癌剤感受性に影響をおよぼしていた.酸化ストレスによるDNA傷害に対する正常なROS産生能の低下がその原因であった.
索引用語 ROS, 消化器癌