抄録 |
【目的】癌組織においては、血管新生や間質圧の変化により、血流が途絶えたり再開通することが頻回に起こっていると考えられている。その際、癌細胞は、低酸素・再酸素化という酸化ストレスを受けている。今回、この低酸素・再酸素化(A/R)と近年癌の浸潤・転移の過程で注目されている上皮間葉転換(EMT)について、その現象とメカニズムについて検討した。【方法】ヒト大腸癌細胞(HT-29)を無酸素チャンバーを用いて2時間の無酸素化の後、再酸素化を行い(A/R)、E-cadherin及びVimenntin蛋白およびmRNA発現をそれぞれウェスタンブロット法、RT-PCR法にて検討した。また、EMT関連転写因子(NFkB, Snail, ZEB1)についてもRT-PCR法にて検討するとともに、NF-kBについては核蛋白をELISA法で検討した。次にA/R刺激後のEMT誘導の機序について検討するため、A/R刺激前にプロテオソーム阻害剤で前処理し、E-cadherin発現への影響を評価した。【結果】1)A/R刺激により、大腸癌細胞は、紡錘形や遊離等間質様細胞に変化していた。2)癌細胞表面のE-cadherinは減少し、連続性が途絶え細胞の遊離を認めた。3)A/R刺激により、E-cadherinの総量が減少した(ウェスタンブロット法により)4)間質マーカーのVimentin は、A/R刺激により増加した。5)A/R刺激によりEMT関連転写因子(NFkB, Snail, ZEB1)は、活性化されていた。活性化されたNFkBについては、その阻害剤によりE-cadherinは減少は、抑制された。【結論】癌微小環境で見られる低酸素・再酸素化は、EMTを誘導する。そのメカニズムに少なくとも酸化ストレスで活性化するNFkBが関与していると考えられるが、他の因子(Snail, ZEB1)についても今後検討する必要がある。 |