抄録 |
【背景、目的】C型慢性肝炎患者からの肝細胞癌(HCC)への進展には著しい個人差が認められており、その原因の1つとしてsingle nucleotide polymorphism(SNP)を含めた遺伝的背景が関与していると考えられる。そこで今回我々は肝発癌に関連があると予想される候補遺伝子のSNPと肝発癌との関連について解析を試みた。【方法】2004年~2009年の間に当院に入院したC型肝炎の患者468人を対象とした。肝癌を発症した265人と発症していない203人の患者において、肝発癌への関与が予想される81の候補遺伝子についてMALDI-TOF MS iPLEXassayを用いてSNP解析を行った。さらに患者背景を含めたロジスティック回帰分析を行った。また、関与が示唆されたSNPについて各患者でrisk genotypeのOddsRatio(OR)を掛け合わせたmultipliedOR(MOR)を算出し累積的関連を検討した。さらに3cm、3個未満のHCCに対し初回治療としてRFAを行った111人のHCC患者を対象に、RFA治療後の再発率とSNPとの関連について検討した。累積再発率の算出にはKaplan-Meier 法を使用した。【結果】SNP解析にて、これまで肝発癌に関連があることが報告されているMDM2(OR=2.0)、ALDH2(OR=1.6)に加え、CCND2(OR=2.0), RAD23B(OR=1.8), CEP164(OR=3.5), GRP78(OR=1.8)の関与が示唆された。MORを基準とし、5つのrisk groupに分類して検討すると、超高リスク群では超低リスク群に比べて、発癌に対するオッズ比が19となった(p=1.08×10-5)。これをIHIT studyの発癌率と合わせて検討すると、10年後の推定発癌率はF0/1かつSNPs超低リスク群の1.7%からF4かつ超高リスク群の96%まで細分化された。治療後再発における検討では(観察期間中央値は1043日)高リスク群は低リスク群に比べて優位にHCCの再発率が高かった(p=0.038)。【結語】SNPsによる発癌リスクの差は一般に小さいが、SNPsのリスクを組み合わせる事により、リスクの差をより明確にすることが可能となり、遺伝子背景測定の臨床的有用性が高まると考えられた。 |