抄録 |
【はじめに】αリポ酸は抗酸化物質として知られており、そのフリーラジカルスカベンジ能に基づく抗腫瘍効果が、種々の癌細胞で報告されている。今回我々は、空気中で安定かつ水溶性で強い抗酸化作用を有するαリポ酸誘導体DHLTauZnを開発し、癌細胞に対する抗腫瘍効果を検討した。【方法】<in vitro>大腸がん細胞株HT-29に対するDHLTauZnの影響を、生存率、細胞周期、カスパーゼ3/7の活性化、電子顕微鏡による細胞形態、ウエスタンブロット法によるオートファジー関連タンパクの発現、Bio-plexによるリン酸化タンパクの発現を解析した。<in vivo>bulb/c nu/nuマウスでHT-29細胞の皮下腫瘍モデルマウスを作成し、マウスを5群(生食投与群およびDHLTauZn投与群(0.1, 1, 5, 5mg/kg/body))に振り分け、毎日1回6週間皮下注射し、腫瘍体積を計測した。【結果】<in vitro>DHLTauZnの投与は、HT-29細胞に対して濃度時間依存的な細胞増殖抑制効果を示した。DHLTauZn投与は、G2/M期での細胞周期停止を誘導し、またカスパーゼ3/7活性が有意に低く、アポトーシス誘導は認めなかった。電子顕微鏡ではネクローシスおよびオートファジーの所見を認め、LC-3-の発現はIからIIへの移行を示した。リン酸化蛋白分析にてP38MAPK, ERK、JNKの有意なリン酸化亢進をきたした。DHLTauZnの細胞増殖抑制効果はJNK抑制剤にて有意に減弱した。<in vivo>DHLTauZn0.1mgおよび1mg/kg/body投与群が生食投与群に比べ有意な腫瘍増殖抑制効果を示した。【結論】新規抗酸化物質であるαリポ酸誘導体はin vitro, in vivoにておいて大腸がんの腫瘍増殖抑制効果を示し、in vitroにおける増殖抑制の機序には、MAPキナーゼのリン酸化を介したG2/M期での細胞周期停止、ネクローシス、オートファジーなどの非アポトーシス細胞死が関与していると考えられた。 |