セッション情報 パネルディスカッション6(消化吸収学会・消化器病学会・消化器内視鏡学会・消化器外科学会合同)

消化吸収の側面からみた炎症性腸疾患の病態と栄養療法

タイトル 消PD6-1:

クローン病における低コレステロール血症の発症機序と栄養指標としての意義について

演者 岩本 淳一(東京医大茨城医療センター・消化器内科)
共同演者 本多 彰(東京医大茨城医療センター・消化器内科), 松崎 靖司(東京医大茨城医療センター・消化器内科)
抄録 【目的】クローン病では低コレステロール血症を認めることが多く,一般にはコレステロールの消化・吸収障害が原因と考えられている。しかし,コレステロールの吸収は上部空腸で行われ,空腸に活動性の病変がないクローン病でも,しばしば血清コレステロール値は低下する。本研究はクローン病における血清コレステロール値低下のメカニズム解明と,同疾患における血清コレステロール値の臨床的な意義の検討を目的とした。【方法】回腸病変を有するクローン病21例(うち遠位回腸切除後4例),潰瘍性大腸炎10例,正常対照26例について,血清中のコレステロール吸収,生合成,異化に関するマーカーメタボライトをLC-MS/MS法で分析した。また、回腸の胆汁酸吸収マーカーであるFGF19濃度をELISA法にて定量した。【結果】クローン病では正常対照群に比べて有意に血清コレステロール値が低下していたが,潰瘍性大腸炎では低下を認めなかった。腸管からのコレステロール吸収マーカーである血清シトステロールとカンペステロールの濃度には,すべての群で有意差がなかった。一方,コレステロール生合成のマーカーである血清ラソステロールと,コレステロール異化(胆汁酸合成)のマーカーである7α-ヒドロキシ-4-コレステン-3-オン(C4)濃度は,いずれもクローン病でのみ有意に上昇し,特に遠位回腸切除例で上昇が著明であった。また,血清FGF19濃度はクローン病でのみ有意に低下していた。【結論】空腸に活動性の病変がないクローン病では,明らかなコレステロールの吸収障害はないと考えられた。それにもかかわらず低コレステロール血症が引き起こされるのは,胆汁酸への異化亢進に伴うコレステロールの過剰消費のためと考えられた。従ってクローン病患者における血清コレステロール値の変動は,栄養状態のみならず,回腸病変の程度(胆汁酸吸収障害の程度)を反映する指標であると考えられた。
索引用語 クローン病, コレステロール