セッション情報 パネルディスカッション6(消化吸収学会・消化器病学会・消化器内視鏡学会・消化器外科学会合同)

消化吸収の側面からみた炎症性腸疾患の病態と栄養療法

タイトル 消PD6-4追:

アミノ酸による小腸上皮損傷治癒促進効果とその分子機構の解明

演者 堅田 和弘(京都府立医大大学院・消化器内科学)
共同演者 高木 智久(京都府立医大大学院・消化器内科学), 内藤 裕二(京都府立医大大学院・消化器内科学)
抄録 【目的】本邦ではクローン病の治療の選択肢の一つに経腸成分栄養療法が位置づけられており、アミノ酸製剤による緩解導入効果・維持効果が確認されている。しかしながら、個々のアミノ酸における粘膜損傷治癒効果、ならびにその分子機構の詳細は明らかではない。今回、我々は各種アミノ酸による粘膜損傷治癒促進効果を検証するため、各種アミノ酸を欠落させた調整培養培地を用いて、小腸粘膜上皮細胞を用いた損傷治癒試験(Wound healing assay)における影響を検討した。【方法】全アミノ酸添加培地、アミノ酸無添加培地に加えて、各種アミノ酸を欠落させた調整培地(タンパク構成全20種類をそれぞれ欠落させたもの、塩基性アミノ酸欠落、含流アミノ酸欠落、分岐鎖アミノ酸欠落、必須アミノ酸欠落、非必須アミノ酸欠落)を作成し、正常ラット小腸上皮細胞株(RIE)を用いてWound healing assayを行い、各種アミノ酸の効果を検討した。その結果、損傷治癒に関与する複数のアミノ酸が同定され、特に、分岐鎖アミノ酸の損傷治癒促進効果における分子機構の詳細を検討した。【結果】粘膜上皮損傷治癒において無電荷アミノ酸としてシステイン、塩基性アミノ酸としてヒスチジン・アルギニン、さらには分岐鎖アミノ酸を欠落させると粘膜上皮の損傷治癒が有意に遅延した。一方、全アミノ酸添加培地に細胞内シグナル伝達に関与する蛋白質キナーゼであるmTORの阻害剤 (Rapamycin)を添加することにより分岐鎖アミノ酸欠落培地と同等の潰瘍治癒遅延をきたした。mTOR阻害剤の添加処置や分岐鎖アミノ酸欠落培地では翻訳開始に関与する分子であるP70 S6 kinaseのリン酸化が制御されていた。【結論】アミノ酸は粘膜上皮細胞の損傷治癒に重要な役割を担っていると考えられた。特に、分岐鎖アミノ酸による損傷治癒効果はmTORを介した細胞内シグナルが重要であることが明らかとなった。このように、個々のアミノ酸における損傷治癒に対する効果・分子機構を明確にすることで、栄養療法の重要性が再認識されると考えられた。
索引用語 アミノ酸, mTOR