抄録 |
今回、肝被膜下に出現した10cm大の巨大な膵仮性嚢胞と膵性腹水に対して、酢酸オクトレオチドが著効した症例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する。症例は29歳男性。2003年11月にアルコール性急性膵炎の診断で入院加療をうけた。2004年11月ERP上は膵管に異常を認めなかった。2006年1月に腹痛の再燃あり腹部CT上膵炎の所見および膵頭部の石灰化、多発する膵嚢胞性病変を認め慢性膵炎および仮性嚢胞と診断された。絶食と蛋白分解酵素、抗菌薬の投与で改善した。2006年12月26日腹痛が出現し、前医に慢性膵炎急性増悪の診断で再入院、膵炎の加療をうけ症状は改善し食事再開となったが、再度アミラーゼ上昇や腹痛の増強があり2007年2月2日当院に転院となった。入院時右季肋部に著明な圧痛および深呼吸時の胸痛を認め、アミラーゼ429IU/l, リパーゼ118IU/l, CRP 4.57mg/dl, WBC 7400/μgと膵酵素の上昇および軽度の炎症反応を認めた。CT上膵は腫大や周囲の炎症所見はなかったが、肝表面に約13×5cmの凸型の巨大嚢胞と腹水および両肺底部の索状影、無気肺の所見を認めた。腹水および嚢胞を穿刺したところ、いずれも淡血性であり、腹水中 アミラーゼ 51,005 IU/l, リパーゼ 80,750 IU/l、嚢胞中 アミラーゼ 5,164 IU/l, リパーゼ 7,795 IU/lと著明な膵酵素の上昇があり、膵性腹水及び膵仮性嚢胞と診断した。第8病日にERPを施行したところ膵頭部で主膵管から垂直方向に延びる陰影を認め、同部位に経乳頭的ドレナージを試みたが施行できなかった。嚢胞と膵管との交通が疑われたため、同日より酢酸オクトレオチド200μg/日の皮下注を開始したところ、徐々に右季肋部の圧痛および炎症反応の改善を認め投与開始7日後の腹部CTで腹水は消失、嚢胞は著明に縮小した。投与開始15日後には嚢胞径は2cmまで縮小し内腔もほぼ消失したため同日より酢酸オクトレオチドを100μg/日に減量し以降も症状の再燃なく退院した。 |