セッション情報 一般演題

タイトル 129:

A型胃炎に伴った多発胃カルチノイドの1例

演者 吉田 健一(済生会熊本病院 消化器病センター)
共同演者 塩屋 公孝(済生会熊本病院 消化器病センター), 船越 禎広(済生会熊本病院 消化器病センター), 八板 弘樹(済生会熊本病院 消化器病センター), 上原 正義(済生会熊本病院 消化器病センター), 江口 洋之(済生会熊本病院 消化器病センター), 藤本 貴久(済生会熊本病院 消化器病センター), 多田 修治(済生会熊本病院 消化器病センター), 須古 博信(済生会熊本病院 消化器病センター), 神尾 多喜浩(同 病理)
抄録 症例は59歳女性。職場検診にて貧血を指摘されたため,精査目的で2006年11月当院外来を紹介受診。胃内視鏡検査を施行したところ,胃体上部後壁に10mm大の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認め,これとは別に胃体上部前壁にも6mmおよび3mm大の粘膜下腫瘍様隆起を認めた。いずれの病変も表面の毛細血管の拡張を伴い,わずかに黄色味を帯びていた。また背景粘膜は特に胃底腺領域で萎縮が強く,胃体部大弯の粘膜ひだは送気にて容易に消失した。これらの所見よりA型胃炎に伴う多発胃カルチノイドを疑い,3病変よりそれぞれ生検を施行したところ,いずれもcarcinoidの診断であった。超音波内視鏡検査では,体上部後壁の病変は第2層を主座とし,深部では第3層に突出する低エコー領域として描出され深達度SM2と判断した。また前壁の2病変はいずれも超音波内視鏡上M病変であった。その後行った血液検査では,貧血は大球性正色素性であり,血中Vit.B12 92pg/ml(正常;233~914),葉酸 7.3ng/ml(3.6~12.9),空腹時ガストリン 890pg/ml,抗胃壁細胞抗体 20倍でありA型胃炎の存在も確認された。腹部造影CTでは所属リンパ節の腫大は認めず,PETでも腹部領域に異常集積は認めなかった。治療方針については胃切除も検討したが,患者と十分話し合った上,診断的治療として内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)にて3病変を切除した。切除標本の組織像では,胃体上部後壁の10mm大の病変は,粘膜固有層深部から粘膜下層にかけて均一な類円形核と好酸性胞体を有する腫瘍細胞が索状,腺管状に増殖し,脈管侵襲,リンパ管侵襲は認めなかった。前壁の2病変も同様の組織像を呈し,腫瘍は粘膜固有層にとどまっていた。また背景胃粘膜内には内分泌細胞小蜂巣(ECM)が散見された。これら腫瘍の大きさ,深達度,組織所見より低悪性度の腫瘍と思われ,患者と相談し胃切除は施行せず慎重に経過観察中である。A型胃炎に伴う胃カルチノイドの治療方針に関してはまだ統一した見解が得られていないのが現状であり,貴重な症例と思われ,文献的考察を踏まえて報告する。
索引用語 胃カルチノイド, A型胃炎