共同演者 |
八板 弘樹(済生会熊本病院 消化器病センター), 吉田 健一(済生会熊本病院 消化器病センター), 上原 正義(済生会熊本病院 消化器病センター), 江口 洋之(済生会熊本病院 消化器病センター), 藤本 貴久(済生会熊本病院 消化器病センター), 多田 修治(済生会熊本病院 消化器病センター), 須古 博信(済生会熊本病院 消化器病センター), 富安 真二朗(同外科), 神尾 多喜浩(同病理), 後藤 幸正(島子ごとう医院) |
抄録 |
症例は55歳、女性。平成18年9月、初めて検診を受け、胃X線検査にて異常を指摘されたため10月17日某医受診。上部消化管内視鏡検査にて胃体下部大彎に粘膜下腫瘤様の隆起性病変が認められた。陥凹部からの生検はGroupIであったが癌を否定できず、10月31日当科紹介となる。上部消化管内視鏡検査を施行したところ胃体下部大彎に、頂部にdelle様の陥凹を有する小児手拳大の粘膜下腫瘤様隆起を認めた。陥凹部からの生検でGroupV, signet ring cell carcinomaの診断を得た。超音波内視鏡検査(EUS)では、腫瘍は第3層から第4層を主座とする辺縁不明瞭な低エコー腫瘤として描出され、浸潤性発育が示唆された。以上より、癌は粘膜下に浸潤し、粘膜表面の露出が乏しい進行胃癌であり、さらにEUSにて辺縁不明瞭な低エコー腫瘤と描出されたことより粘液癌や未分化型髄様癌を考えた。11月に胃全摘術を施行した。腫瘍は漿膜面に露出していたが腹水や腹膜播腫は認めず、T3(SE) H0 P0 N1 M0 CY0 StageIIIAの所見であった。病理組織学的には、癌層内に著明な粘液貯留を認め、粘液内に癌細胞が浮遊しており、mucinous adenocarcinoma,se, ly2, v0, n0の診断であり、リンパ節転移はなくstageIIであった。一般に、粘膜下腫瘍様の形態を呈する胃癌は病変の大部分が粘膜下に存在し、表層は正常胃粘膜に覆われていることが多いため、生検で確定診断が得られず診断に苦慮することが多い。本症例も腫瘍の大部分は粘膜下に存在する粘液結節からなり、癌は陥凹底と辺縁隆起部内側にわずかに露出しているのみであったが、術前検査所見を検討した結果、進行胃癌、特に粘液癌を鑑別診断のひとつとして疑うことが出来た。また術式においては、腫瘍の局在からは幽門側胃切除も可能ではあったが、粘膜下進展をきたした未分化癌を懸念し、また患者の年齢が若かったことも総合的に判断し、十分なインフォームドコンセントの上で、胃全摘+脾摘を施行した。今回我々は、術前に粘液癌を疑うことのできた粘膜下腫瘤様胃癌を経験したので文献的考察を加え報告する。 |