セッション情報 ワークショップ1

タイトル W1-02:

潰瘍性大腸炎に発生した大腸癌(colitic cancer)におけるsurveillanceの問題点

演者 平田 稔彦(熊本赤十字病院 )
共同演者 川口 哲(熊本赤十字病院 ), 吉永 秀哉(熊本赤十字病院 ), 松下 郁雄(熊本中央病院), 櫻井 健一(熊本中央病院), 高野 定(熊本中央病院), 多田 修治(済生会熊本病院)
抄録 長期経過した潰瘍性大腸炎においては発癌のリスクが高いとされているが,背景粘膜に炎症を伴うため早期診断が容易ではないことや癌発見のためのsurveillanceをいかに効率よく行うかといった臨床上の問題点が指摘されている.今回それらの問題点を明確にするために,当院および熊本中央病院におけるcolitic cancerの2例を提示する.症例1:患者は47歳,女性.17歳時に発症した全大腸炎型.過去5年間は活動期に検査を行っていた.今回緩解期に,経過30年のsurveillance目的の内視鏡検査にて直腸Rbに平坦で境界不明瞭な発赤あり.生検でdysplasia,半年後の同部位からの生検で高分化腺癌と診断された.術前精査にて遠隔転移は無く,深達度Mのcolitic cancerの診断で大腸全摘術を施行した.結果はfT1(M) N0 M0 stage0で,術後経過は良好である.症例2:患者は48歳,男性.33歳時に発症した左側大腸炎型.今回下血を認め入院.内視鏡検査では活動期の炎症のみであったが,2ヵ月後の再検査にて直腸の隆起性病変を指摘され生検にて高~中分化腺癌と診断された.リンパ節転移や遠隔転移は認めなかったが,会陰部に膿瘍を形成していた.3型のcolitic cancerの診断で大腸全摘術を施行した.結果はfT(A2) N1 M0 stageIIIaで2年後に局所再発,2年5ヵ月後に原病死した.今回提示した2例では癌を指摘される前に内視鏡検査を行っているが,いずれも活動期で高度炎症のためか発見には至っていない.colitic cancerは,通常の大腸癌と異なり平坦で境界不明瞭な形態を示すことがあり,また周辺にdysplasiaと呼ばれる前癌病変を伴っている場合が多いことから生検が有効であるとされている.しかしながら活動期には周囲の炎症により病変部がますます不明瞭になり生検部位を特定できないため,surveillance目的内視鏡検査はできるだけ緩解期に行ったほうが望ましいと思われた.また発症から10年を超えるような長期経過例においては,colitic cancerの存在やその特徴を念頭においてsurveillanceを行うべきである.
索引用語 潰瘍性大腸炎, colitic cancer