抄録 |
われわれは比較的まれな脾上皮性嚢胞を経験したので報告する。症例は32歳、女性。家族歴・既往歴に特記すべき所見なし。現病歴:2006/9ころから左側から背部にかけて膨満感を伴う疼痛を自覚したが放置していた。11月になり食事摂取量が減少したので気になり近医を受診した。上部消化管内視鏡検査を受け胃弓隆部の壁外性圧迫を指摘され精査・加療目的で当科紹介受診となった。腹部理学所見で左季肋部にから背部にかけて軽度の圧痛を認めた。血液検査ではWBC 4630/μL, RBC 396/μL, Hb 12.6g/dl, Plt 20.8万/μL, AST 27 U/L, ALT 13 U/L, LDH 167 U/μL, ALP 166 U/L, Amyl 50 U/L, BUN 12.5 mg/dl, Crea 0.7 mg/dl, Na 144 mEq/L, 4.6 mEq/L, 106 mEq/L, CEA 1.3ng/ml, CA19-9 366 U/ml であった。腹部超音波検査で左上腹部の脾門部に12x10x9 cmの嚢胞性腫瘤を認め、内容は浮遊物を伴う液状で一部隔壁様の構造があった。造影CTで嚢胞壁はやや不均一で厚い部分は7mm、頭側壁には小石灰化があった。嚢胞は脾門部と膵尾部の間にあり膵体尾部は尾側に圧排されていた。MRIでは腫瘤は単房性に見え外側から下壁に隔壁様構造があり、壁は薄く比較的均一であった。T1強調画像、T2強調画像とも高信号で、拡散強調画像でも高信号であることから、嚢胞の内溶液は粘性の高いものが示唆された。血管造影では腫瘍へは脾動脈から栄養血管が出ていたが、栄養血管分枝部は脾門部から離れているように観察された。以上から脾嚢胞または膵嚢胞性病変と術前診断した。手術は腹腔鏡下に施行した。術中所見で脾嚢胞と診断し、内容を周囲にもらさないように吸引後、腹腔鏡下に脾臓摘出術を施行した。術後切除標本の病理組織診断で壁は厚い線維組織からなりヘモジデリンの沈着が認め、多くの嚢胞壁内腔の上皮は脱落していたが一部で上皮様構造が認められ、脾上皮性嚢胞と診断した。嚢胞内容液のCA19-9は20.5万U/mlで、術後1か月で血清CA19-9は24 U/mlと正常化した。脾上皮性嚢胞の成因についてはいまだ明確な結論は出ていない。脾上皮性嚢胞について文献的考察を含め報告する。 |