抄録 |
[導入]胆管炎、肝膿瘍、消化管穿孔にともなう二次性腹膜炎などの腹腔内感染症では様々な細菌が原因微生物となる。主にグラム陰性桿菌とBacteroides属を代表とする偏性嫌気性菌とグラム陽性球菌では腸球菌を標的として抗菌薬が選択される。しかし、腸球菌の一部はアンピシリン耐性(Ampicillin resistant Enterococci:ARE)でグリコペプチド系かリネゾリドでの治療が必要となる。今回、我々は腸球菌が血液培養から検出された腹腔内感染症の中でAREの割合とその臨床背景、および予後について検討した。[方法]腸球菌が血液培養から検出された腹腔内感染症の患者について2009年から2010年まで電子カルテ上に記録されているデータからretrospective analysisを行った。腸球菌の種名、抗菌薬の感受性、原因となった腹腔内感染症、医療行為関連要素(30日以内の経静脈点滴や創傷ケアを受けている、老人保健施設入居中、90日以内に2日以上急性期病院入院歴がある、30日以内の透析クリニック受診歴あり)の有無、Sepisisの有無、予後について検討した。[結果] 腸球菌菌血症をきたした腹腔内感染症は24症例であった。内訳は胆管炎16例、肝膿瘍1例、腹膜炎7例。AREは5症例( E.faeciumが4例、E.aviumが1例)であった。ARE5症例では胆管炎2例、腹膜炎3例であった。医療行為関連要素は全例に認められた。Sepsisは全例に合併していた。1例のみが1週間以内の死亡例が1例のみであった。[結語] 腸球菌による腹腔内感染症の治療においてはバンコマイシンやリネゾリドなどの投与を考慮する必要があるかもしれない。しかし、有効な抗菌薬の投与が血液培養判明後であっても予後に変化があるかどうかは不明であった。今後、エンピリック治療としてのバンコマイシン投与が必要かどうかについては更なる研究が必要であると考えられた。 |