抄録 |
NSAID潰瘍は症状が乏しく、突然吐血で発症する。本邦では、1991年日本リウマチ財団が3ヶ月以上NSAIDを服用している1008例の関節リウマチ(RA)患者の調査を行い、胃十二指腸病変を有する患者が62.2%、胃潰瘍が15.5%に認められたと報告している。私たちの最近の調査ではRA患者のNSAID胃十二指腸潰瘍発症率は21.9%であり、2006年度の本邦における症例対照研究では、NSAID服用者の上部消化管出血リスクは6.1、そのうちロキソプロフェン(LOX)の出血リスクは5.9に及ぶ事が示された。2011年に初めてセレコキシブ(CEL)、LOX、プラセボの無作為二重盲検比較試験が行われ、胃十二指腸潰瘍発症率はそれぞれ1.4%、27.6%、2.7%であることが示された。この様に、LOXの出血リスクや消化性潰瘍発症頻度、及びRA患者の現状は、欧米で報告されている非選択的NSAID服用者の消化管傷害発症頻度と大きな差がないことが明らかにされた。 さらに、2週間のNSAID服用で60%前後に何らかの小腸病変, 15%に小腸潰瘍が発症する。CEL、ナプロキセン、プラセボの無作為比較試験では、それぞれ16%、55%、7%に小腸病変が発症し、プロトンポンプ阻害薬(PPI)には小腸傷害予防効果はなく、CELは非選択的NSAIDより小腸粘膜傷害が少ないことが示された。上部消化管、小腸、下部消化管を含む全消化管出血をアウトカムとしたCELとNSAID、PPI併用群の二重盲検比較試験ではCEL群の出血頻度が0.9%, NSAIDとPPI併用が3.8%であり、有意にCEL群で全消化管の出血頻度が少なく、 NSAID消化管傷害予防には非選択的NSAIDにPPIを併用するよりもCELが有用と思われる。このような結果から、日本消化器病学会消化性潰瘍診療ガイドラインではNSAID潰瘍予防に関する指針で、「NSAID潰瘍予防にCOX-2選択的阻害薬は有用である。(略)」としている。 |