抄録 |
グレリンは、ラットとヒトの胃から発見された強力な成長ホルモン(GH)分泌促進活性をもつペプチドである(Nature 1999)。28個のアミノ酸からなり、3番目のセリンの側鎖が炭素数8個の脂肪酸であるオクタン酸の付化修飾を受けて活性が発現するという極めてユニークな構造をしている。グレリンはさらに、摂食亢進(Nature 2001)、エネルギー代謝、抗炎症、交感神経抑制、心血管保護など多彩な生体調節機能を有している。グレリンは現在知られている中で、唯一の末梢で産生され摂食を刺激するアナボリック作用を持つペプチドである(Cell Metab 2006)。グレリンには抗アポトーシス、酸化ストレス抑制、血流増加などの作用もある。演者らはグレリンの多彩な作用を基に、1) 慢性閉塞性肺疾患 (COPD)の運動耐容能低下、2) 慢性下気道感染症の気道炎症、3) 慢性呼吸不全の呼吸機能低下、4) 糖尿病性末梢神経障害、5) 肺癌での化学療法による副作用、に対する新規治療薬としての臨床試験を進め、グレリンの有効性を報告している。また、胃癌と食道癌の術直後や術後1年以上を経ても体重減少が著しい症例ならびに食道癌の術前化学療法との併用に対し、グレリンの臨床試験が行われている。六君子湯は食思不振のある慢性萎縮性胃炎患者で低下しているグレリンの血漿濃度を改善することが知られている。グレリンの機能と創薬研究を中心に講演したい。 |