抄録 |
【症例】77歳男性 【主訴】吐血 【既往歴】平成11年 腹部大動脈瘤人工血管置換術 【現病歴】慢性心不全、心房細動等の診断にて近医で投薬加療中であった。平成15年6月13日、追突事故受傷後より腰痛持続。ここ数日全身倦怠感が続いていた。7月30日午後、吐血を起こし、同院へ救急搬送される。消化管出血、出血性ショックの診断にて当院救急外来へ紹介転送。【現症】意識 正、血圧117/58、脈拍177、呼吸数33、腹部はやや硬いものの筋性防御を認めなかった。【検査所見】Hb9.1 g/dl BUN 18mg/dl, Cr 1.02mg/dl pH 7.238 PCO2 16.5mmHg HCO3 6.8mmHg BE -19.5mmol/l 【搬入後経過】血圧を100台に維持した上で内視鏡検査施行。大量の新鮮血塊は十二指腸内より幽門輪を超えて胃内に連続していた。十二指腸下降脚以深からの活動性出血であることが判明。内視鏡検査中に不穏・意識混濁、ショック状態となり、ICU搬入時には心肺停止(PEA)の状態であった。CPR開始、大量輸液・輸血およびDoA投与にて一時的に血圧90台、意識回復。しかし消化管出血は持続。緊急手術の適応を検討するも再度ショック状態となり永眠された。死後、御遺族の承諾を得て体部CT検査を行ったところ十二指腸水平脚の背側に認めた大動脈とY-graftとの吻合部内・外に小さな気泡が散在しておりグラフトと腸管の交通が示唆された。大動脈十二指腸瘻と診断した。本疾患は二次性(腹部人工血管置換術後)がほとんどであるが置換術後の0.3%の発症とされ稀な病態である。原因として腸管に対する人工血管の機械的刺激、仮性動脈瘤の破裂、術中の腸管損傷、感染があり、発生部位は十二指腸水平部がほとんどとされる。突然の新鮮吐血で発症する消化管出血の原因のうち、比較的稀ながら致死的疾患として認知すべき疾患として若干の考察を含め呈示する。 |