抄録 |
アニサキス症は日常臨床において度々遭遇する疾患である。その傷害部位としては胃が多く、上部消化管内視鏡により容易に診断・治療される。しかし、腸アニサキス症は稀で、診断・治療に苦慮する場合が多い。我々は、開腹歴のないイレウス症状を呈した腸アニサキスの1症例を経験したので報告する。症例は38歳、男性。主訴は腹痛。2日前、焼鳥・生サバ・揚げ物を食べ、6時間後より上腹部痛出現。一旦軽快した後、臍上部痛出現したため近医受診した。腹部骨盤CT検査で小腸イレウスを疑われ、当院へ紹介された。既往歴に急性膵炎があり、開腹歴はなかった。腹部所見は臍左上部に圧痛点を認め、反跳痛があり腸蠕動音は低下していた。血液検査所見は、WBC12000,CRP13.1と炎症所見を認めた。腹部単純レントゲン写真では、小腸の拡張像を認め、腹部骨盤CT検査では、左側空腸を中心に浮腫状の限局性の壁肥厚とその周囲にdirty fat signを認め、その口側腸管の拡張も認めた。急性腹症による手術適応も考慮されたが、病歴から腸アニサキス症を強く疑い、腹痛は強かったものの、筋性防御はなく、穿孔や膿瘍所見はないため保存的治療を行うこととした。また診断の補助として血清IgE、抗酸球数、血清抗アニサキス抗体を測定したところ、いずれも高値であった。入院後、自他覚所見共に徐々に軽快し、入院後5日目には飲水食事が開始され、入院7日目には退院された。腸アニサキス症の診断のポイントとしては以下の5つが挙げられる。1)アニサキス症を疑わせる食歴、2)腸炎との鑑別、3)腹部所見の存在、4)腹部骨盤CT所見、5)血清抗アニサキス抗体陽性、の5つである。本症例では保存的治療が可能であったが、穿孔、壊死、大量出血の疑いがある場合や、腹膜炎症状が強い場合、アシドーシスを伴う場合には外科的介入をする必要がある。鑑別疾患には留意し,病状の変化を観察し,開腹のタイミングを逸しないことが重要であるが,腸アニサキス症を疑った場合,腸管穿孔や汎発性腹膜炎をきたしていなければ保存的治療を選択することも可能と思われた。 |