抄録 |
[背景]自己免疫性膵炎(AIP)は近年IgG4関連硬化性疾患の概念が提唱されており、全身性疾患とも考えられている。本邦では2006年に改訂された診断基準が使用されているが、韓国や米国でも各々診断基準が提唱されており、整合性が問題となっている。また血中IgG4値の意義や治療法にも問題点・不明点が残されている。[目的]2006年-2008年に当科でAIPと診断された21例に対し臨床像・治療について検討した。[結果]本邦の2006年の改訂基準で診断されたのが15例、米国基準で診断できたのが5例(組織所見は得られたが、典型的な膵管狭細像が得られなかった)、IDCPが1例に認められた。本邦・米国基準のいずれかで診断されたAIPの20例について検討すると、平均年齢68.6歳、男女比は17:3と男性に多かった。CT/MRIにて膵周囲の被膜様構造が13例に認められ、膵外病変は18例に認められた。7例に肝癌や直腸癌など他臓器癌の既往を認めた。血中IgG値は6例で正常範囲を示し、血中IgG4値は測定された19例中18例が135 mg/dl以上で、平均860 mg/dlであった。炎症が及んだ臓器(膵・胆管・肺門もしくは縦隔リンパ節・後腹膜線維症・唾液腺・涙腺など)が2-3臓器と4臓器以上の症例を比較すると、血中IgG4値の平均値はそれぞれ503 mg/dlと1928 mg/dlであり、血中IgG4値が活動性の指標になり得ると考えられた。膵内外分泌機能検査では、グルカゴン負荷試験で16例中14例がインスリン分泌能の低下を示し、PFD試験の平均値(18例〕は49.0%と低値であった。治療は手術が1例、ステロイド治療が17例に行われ、プレドニゾロンの開始量は45 mg/dayが1例、40 mg/dayが6例、30 mg/dayが10例であった。当初ステロイド治療施行全例に治療は有効であったが、3例に減量中の再燃を1年以内に認めた。インスリン治療が7例に行われ2例は離脱・減量が可能であったが、1例で不安定型となり重症低血糖が認められた。経過中胸椎圧迫骨折を1名に認めた。[結語]AIPの診断・治療に関しては、活動性・膵機能・膵外病変の評価・再燃例・診断困難例・治療合併症などの要素を踏まえ、検討する必要がある。 |