抄録 |
症例は80才代、女性。主訴は検診希望。高血圧、慢性心不全で近医に通院中、2007年7月、上部消化管内視鏡検査を受けた。食道胃接合部胃側に過形成性ポリープを疑うφ10 mm の隆起性病変を認め、生検で腺癌を疑われたため、精査加療目的で当院へ紹介された。当院での内視鏡精査では、扁平円柱上皮接合に山田III型の発赤調表面平滑なポリープで表面の一部に生検の影響と思われる白苔付着(びらん)を認めた。ポリープの形態、存在部位、滑脱型食道ヘルニア合併での呼吸性変動による観察困難、多数個の生検による修飾などの影響もあり、白色光通常観察・色素散布および NBI 拡大観察のいずれも悪性を示唆する所見を捉えることができなかったが、全生検(診断的治療)目的で、内視鏡的粘膜切除術(キャップ法)を施行した。切除新鮮標本の NBI 拡大観察により、隆起頂部の一部に irregular microvascular pattern (IMVP) を認め、病理組織診断では IMVP を認めた部位に一致して、分化型腺癌 (tub 1) を認めた。免疫染色により、癌部は胃型の粘液形質を有すると判断された。隆起を形成する大部分は非腫瘍(過形成性ポリープ)であり、過形成性ポリープ内胃型早期胃癌([EGJ], pType 0 I, tub1 (2 mm) in hyperplastic polyp (9×4×7 mm), pM, ly0, v0, pLM (-), pVM (-))と診断した。今回われわれは、内視鏡検査では診断できなかったが、全生検(診断的治療)により診断しえた過形成性ポリープ内胃型胃癌を経験した。種々の要因による内視鏡観察が困難な状況においても癌の内視鏡診断は可能なはずであり、さらなる工夫が必要と思われた。また、本症例は比較的稀と思われたため、若干の文献的考察を含め報告する。 |