抄録 |
【背景】神経線維腫症 I 型(von Recklinghausen病)は、神経や皮膚をはじめとして全身に各種の病変を来たす常染色体優性遺伝性疾患で、約3,000人に1人の割合で発症する。非上皮性悪性腫瘍を比較的高頻度に合併するが、消化管上皮性腫瘍の合併は稀であり、胆管細胞癌合併の報告は国内でこれまでに3例を認めるのみである。今回神経線維腫症 I 型に合併した胆管細胞癌の一剖検例を経験したので報告する。【症例】69歳男性。父、同胞3人ともに神経線維腫症 I 型を発症し、弟は悪性神経鞘腫で死亡の家族歴あり。神経線維腫症 I 型発症後も健康な日常生活を送っていた。平成18年5月頃より腹部膨満感を自覚し、症状改善しないため8月近医受診。腹部エコーにて肝左葉に巨大腫瘍を指摘され当科初診。腹部CTにて肝左葉は腫瘤で腫大し、右葉に肝内転移を認め、胆管細胞癌が示唆される所見であった。噴門部や左胃動脈周囲にリンパ節腫大を認め、上腹部腹腔内に播種と思われる結節を認めた。入院時検査値はAST 177 IU/l, ALT 95 IU/l, LDH 1,350 IU/l, ALP 1,903 IU/l, γ-GTP 597 IU/l, T-Bil 0.9 mg/dl, Alb 3.6 g/dl, AFP 5.6 ng/ml, PIVKA-II 43 mAU/ml, CEA 6.4 ng/ml, CA19-9 19.3 U/mlであった。肝腫瘍生検にてadenocarcinomaの所見であり、上下部消化管内視鏡検査で異常なく、胆管細胞癌と考えられた。9月5日よりgemcitabine投与を開始したが、腹水増加のため2クールで中止した。9月20日ふらつきと腹痛を自覚し、血性腹水と貧血進行を認めたため同日肝血管造影施行。左肝動脈造影で外側区域に大きく不均一な腫瘍濃染を認め、腫瘍破裂の可能性を考え左肝動脈塞栓術施行。その後止血したが、肝腎機能悪化のため10月3日死亡。剖検の結果肝腫瘍は、多形性を呈し濃染腫大核を持つ異型細胞が歪な腺管状あるいは癒合腺管状に増殖し、中分化型胆管細胞癌の所見であった。著明な腫瘍壊死と脈管浸潤を伴い、両肺、肺門リンパ節、臓側胸膜、右腎、脾周囲脂肪織および両副腎に転移を認めた。 |