| 抄録 |
症例は73歳、男性。主訴は右上腹部痛。飲酒歴なし。高血圧で降圧薬内服中である。元来健康であったが、2008年6月25日に右上腹部痛が出現し2~3日後に痛みは軽快したが、近医で肝S2に径5.7x 3.8cmの低エコー域を指摘され、7月4日に肝腫瘍精査加療目的で当科入院となった。身長 153cm, 体重 60kg。体温37.7度。腹部は平坦,軟で圧痛なし。白血球数12300/ul、血小板数21.9x104/ul、Alb 3.3 g/dl,T.Bil 1.1 mg/dl、AST 36 IU/l、ALT 45 IU/l、ALP 516 IU/l、γ-GTP 109 IU/l、CRP 14.2 mg/dl、HBs-Ag(-)、HBc-Ab 7.35 s/co、HCV-Ab (-)、赤痢アメーバIgG(-)&IgM(-)、AFP 1.9 ng/dl、PIVKA-II 61 mAU/ml、CEA 1.0 ng/ml,CA19-9 4.0 U/ml。腹部エコーでは軽度脂肪肝を伴う慢性肝障害パターンで、肝S2に6.1x3.6cmの低エコー域を認め、一部は嚢胞状であった。腹部造影CTでは嚢胞状の低吸収域と周囲の濃染域を認め、辺縁部の造影効果は平衡相でも認めた。腫瘍周囲など多数のリンパ節腫大を認めた。造影MRIではEOB肝細胞相で腫瘍実質部分は軽度低信号を呈し、肝動脈造影では同部に不明瞭な淡い濃染域を示した。入院時発熱がみられたが、全身状態は良好であった。肝膿瘍の診断にて抗生剤(SBT/CPZ)投与し炎症反応は改善傾向を示したが、肝内SOLは残存しており、7月24日に肝腫瘍生検を施行した。膿培養では口腔内および腸管内常在菌(Prevotella oralis&Escherichia coli)を検出した。腫瘍生検で採取された標本の殆どは炎症細胞が占め、一部に変性した肝細胞と線維組織を認めるのみで、肝膿瘍に矛盾しない所見であり、悪性の組織像はみられなかった。しかし、その後のCTにて肝左葉低吸収域が肝外突出性に拡大し、破裂や浸潤の危険性を考慮し8月26日に肝外側区域切除術を施行した。腫瘍径は4.5x3.0cmで、その一部に中分化肝細胞癌の所見を認め、それに隣接して著明な炎症細胞の浸潤を伴い、膿瘍もみられた。非癌部肝組織には慢性炎症性変化がみられた。本邦での肝膿瘍を伴った肝細胞癌の報告は非常にまれである。肝細胞癌の増大過程で胆管閉塞や壊死が起こり、そこに経胆道性感染から膿瘍を形成した可能性が考えられた。肝膿瘍の診断および治療において肝細胞癌の合併の可能性も考慮して経過観察する必要があると思われた。 |