セッション情報 消化器病学会・肝臓学会合同特別企画1(消化器病学会・肝臓学会合同)

消化器病学会・肝臓学会合同特別企画 「新時代を担う若き消化器医へのメッセージ」 常時新しいことを求めて

タイトル 消肝特企1-1:

常時新しいことを求めて

演者 谷川 久一(久留米大・名誉教授)
共同演者
抄録 私は医学部を卒業して56年、年齢でいうと丁度満80歳になる。振り返ってみると、当初不明であった肝疾患の多くが肝炎ウイルスによることが判明し、その後その対策が進み、現在は肥満にもとづく肝疾患が数としては圧倒的になった。
卒後2年間米国の大学での卒後臨床研修は、私にどんな環境でも1人で生きていけるといった独立独歩の精神を与えてくれた。安い給料で、1日おきの当直、毎週数多くのプレゼンテーションをつたない英語でこなすなど、客観的には大変な生活であったが、結構楽しい日々であった。ぜひ若い時には誰もがこのような時期を過ごすことは有意義だと思う。
帰国して大学院に入り、その当時始まったばかりの肝生検で得られた肝組織を電子顕微鏡で観察する研究を選んだ。電子顕微鏡観察は、「見えなかったものが見える」といった刺激的なもので、見る毎に新しい発見があり、私はそれだけで幸福であった。A型肝炎ウイルスを初めてみることにも興奮したが、なんといっても当時肝臓というと肝細胞しか頭になかった私は、類洞壁細胞という4種の新しい細胞群のあることを知り、その研究のとりことなった。論文に書く暇もないくらい多くの所見がみつかり、まとめて英文の著書となった。これはその後、イタリア語、スペイン語の訳本も出版された。Stellate細胞が線維を作る主な細胞ではないかと初めて報告したり、肝硬変の類洞内皮細胞の変化から肝硬変診断におけるヒアルロン酸測定の開発など、数かぎりない。
そして、ことに興味をもったのは、ASH、NASHにおけるKupffer細胞の役割の重要性で、その主役をなすLPSが私の心をとらえた。なぜこの様な疾患でLPSの吸収が増加するのか。
本邦における男子成人のおよそ1/3が肥満者で、その多くがNAFLD患者で、本邦ではおよそ2000万、その内NASHは200万と推定される。そしてNASHへの進展にはLPS刺激によるKupffer細胞の活性化が重要と考えられている。
一方、肥満にもとづく内臓脂肪からもTNFαなどのサイトカインやFFAが門脈を介してまず肝細胞に達し、脂肪沈着のみならず、インシュリン抵抗性を生ぜしめ、進展すると2型糖尿病の発症となる。いいかえると糖尿病は肝臓病ともいえるわけで、実際糖尿病の第一の死因は肝疾患である。またこのインシュリン抵抗性が、全身の発癌を助長することも明らかとなってきている。この内臓脂肪からのサイトカインの産生もLPSの作用ではないかと考えられている。
このように肥満では肝臓はNAFLDの状態、そしてこれが高脂血症を生じ、全身の循環器障害の原因となっていることも明らかである。いいかえると肥満により生じた肝臓の変化が全身の疾患の原因を作っていることで、その肝臓の疾患を増悪しているのが腸管由来のLPSである。肝臓に流入する血液のおよそ80%が門脈血で、その多くが腸管由来であり、腸管には1011~1014というおびただしい腸内細菌が存在する。そして現在問題の肥満も腸内細菌が深く関わっているという報告もある。
腸内細菌はなぜ存在するのかといった根本的問題を含めて、肝疾患との関わり、またそれに関連する全身の疾患との関わりを明らかにすることが今後の大きな研究の道筋と思われる。若い方々には常時新しいことを求めて進んで下さることを期待したい。
索引用語