抄録 |
【はじめに】A型急性肝炎は汚染された水,食物を介した経口感染疾患である.本年,本邦でA型急性肝炎患者数の著増がみられている.【症例1】54歳女性.発熱,全身倦怠感を主訴に近医を受診.ALT 4132IU/lと肝障害を認めたため,当科を紹介受診.当科受診時には結膜の黄染を認め,TB 4.52mg/dl, ALT 2929IU/l, PT 83%を示し,IgMHA抗体が高値を呈したことより,A型急性肝炎と診断した.保存的療法で軽快した.発症3週前に生牡蠣の摂食歴があった.【症例2】56歳男性,症例1の夫.発熱,全身倦怠感を主訴に近医を受診.ALT 188IU/lと軽度の肝障害を認めたが,妻がA型急性肝炎にて当科で診療を受けていたため,紹介受診.当科受診時はTB 1.82mg/dl, ALT 4006IU/l, PT 43%と肝機能障害は増悪していた.IgMHA抗体が高値を呈したことより,A型急性肝炎と診断した.保存的療法で軽快した.A型肝炎ウイルス遺伝子解析では症例1, 2ともgenotype 1Aで,解析し得た3000塩基までの比較で100%の一致をみたこと,ならびに時間的な臨床経過より,症例1からの家族内感染が疑われた.【症例3】36歳男性.発熱,全身倦怠感を主訴に近医を受診.ALT 1770IU/lと肝障害を認めたため,当科を紹介受診.当科受診時はTB 1.83mg/dl, ALT 2750IU/l, PT 78%と肝機能障害は増悪していた.IgMHA抗体が高値を示したことよりA型急性肝炎と診断した.保存的療法で軽快した.感染経路は不明であった.【考察】症例1,2は50歳代であり,昨今指摘されているように本邦の50歳代以上においてのHAIgG抗体の陽性率は高くないことが想像され,ワクチン接種の必要性が再認識された.A型急性肝炎の家族内感染の報告例は多くはなく,糞便中のウイルス排泄は潜伏期が主であるため,A型肝炎の家族内感染の予防は実際上は困難と思われた.A型肝炎の本邦での年間届け出数は100~200例であり,それほど多く遭遇する疾患でないために,昨年の韓国での流行と本年の本邦での流行の関連性はあるのかなどを含め,genotypeの地理的分布も明らかでなく,また流行の原因として何がkey factorかも判明していない,などいくつかの課題が浮上した. |