セッション情報 一般演題

タイトル 35:

アスピリン起因性と考えられた食道Dieulafoy潰瘍の1例

演者 田口 宏樹(鹿児島県立北薩病院)
共同演者 米澤 英里(鹿児島県立北薩病院), 福田 弘志(鹿児島県立北薩病院)
抄録 症例は77歳男性。陳旧性心筋梗塞のため低用量アスピリン(100mg)を内服中であった。就寝中に吐血したとのことで当院に救急搬送された。緊急内視鏡を施行したところ,腹部食道右側に血餅付着(Forrest ΙΙb)を認めた。これを除去したところ,露出血管を伴うDieulafoy潰瘍を確認,送水刺激にて容易に出血を認めた。クリッピング止血を行い,出血性胃潰瘍に準じた治療にて治癒した。他の内視鏡所見として食道裂孔ヘルニアを認めた。また,胃粘膜の萎縮は無くH. pylori陰性胃と考えられ,胃酸分泌は強いと考えられた。低用量アスピリンの消化管傷害を惹起する作用としては,アラキドン酸カスケードにおけるCOXを阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制するという間接作用が有名であるが,消化管上皮に直接作用して消化管粘膜上皮細胞内のミトコンドリア内におけるATP産生を抑制することで細胞間結合能が減弱し粘膜透過性が亢進,ここに胃酸,胆汁酸,腸液,腸内細菌等が進入し粘膜傷害を惹起するという直接作用も知られている。これを念頭において,今回の症例を考察してみた。ヘルニア嚢内にアスピリンが停滞することで直接的消化管傷害作用による食道粘膜の透過性が亢進し,H. pylori陰性胃という胃酸分泌が強い状況下において,患者の「右を下に寝る癖」ならびに解剖学的に胃酸逆流の影響が強いと思われる腹部食道右側(Barrett食道癌が有意に発生しやすいという報告もある)という点が重なったことで,胃酸逆流により食道粘膜が傷害され,粘膜下に動脈があったという偶然も重なり,Dieulafoy潰瘍が形成されたのではないかと考えた。対策として,CAPRIE試験(1996年)にてアスピリンより有意に消化管傷害の低かったクロピドグレル(75mg)へ変更したところ,4ヶ月経った現在,再発は認めていない。食道裂孔ヘルニアを有する患者への低用量アスピリン投与においては,食道粘膜傷害が惹起される可能性も念頭に入れる必要があることを示唆された症例であった。
索引用語 低用量アスピリン, 食道潰瘍